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席についてノートやらを広げるわたしの隣では、仁王くんが何故かにまにましていた。
『今日は機嫌いいね、仁王くん』
「んー?やって今日理数科目じゃろ?」
『あれ、仁王くんてまさかの理数系?』
うわあ全然見えない。そんなわたしの心情を知ってか知らずか、仁王くんはにまにまな顔のままわたしの頬をつねってきた。
『いひゃいいひゃい』
「お前さん今失礼な事思っとったじゃろ」
『な、なんれわはっはの!』
「なまえの事なら何でもわかるって言うたけえの」
フフン!なんて効果音が聞こえそうなドヤ顔を噛まして、彼は漸く手を離した。…うう、痛い。
「ほー…なまえもしっかり予習しとるのう」
『主に蓮二くんの助言だけどね。テストに出そうなヤマ結構教えて貰っちゃった』
「なまえセコい!俺にも教えんしゃい!」
『やだ』
「この反抗期ムスメ!」
なんとでもどうぞ。そうドヤ顔返ししたらまた頬をつねられた。でもノートは頑張って死守したよ、わたし偉い。
「お前ら席戻れよー。テスト始めるぞー」
呑気な声と共に入って来た先生に仁王くんはいそいそと席に戻って行った。
配られる用紙を手に持って、よし、とひとつ息を吐く。
どくどくと速くなる心拍数に頑張ろうとだけ呟いてペンを取る。
頭の端にちらついた蓮二くんの言葉を無理やり押し込めて、わたしは机へと向かった。