Lover's Letter | ナノ




23



本当は薄々、気づいていたのかもしれない。それでも気づいていない振りをしていたのは、彼を好きな気持ちが変わる筈ないと…信じていたから。



「…なまえ?」



椅子に座ってわたしの顔を覗き込む蓮二くんに、おかえり、とだけ呟く。どうした?と問い掛けてくる彼はやっぱり優しい。



『…ううん、何でもない』

「…そうか」



不服そうな顔をしていたけど、蓮二くんは何も言わずにいてくれた。それからわたしたちは特に会話をする事もなく、下校時間を迎えた。



『今日はありがとう。これで数学はバッチリだね』

「ああ、それは良かった」



家の前で、そんな会話をして。最後にまたありがとうと言えば、蓮二くんは優しく頭を撫でてくれる。



「また、明日」

『…うん』



ばいばい、大きな背中に言葉を掛けてわたしは家へと入った。





『……ふう、』



ぐー…と伸びをしながらまとめていたノートを眺める。提出課題もほとんど済ませたので、あとはほぼノートまとめだ。



『あともうちょっと…』



置いてあったコーヒーに手を伸ばして喉を潤しながらまた机へと向かう。



『…あれ、修正ペンどこやったっけ』



丸を付けた拍子に引っかいたのか、ノートの端に赤い筋が。

溜め息混じりに引き出しを開けた瞬間、手が止まった。



『……これ、』



手前にある修正ペンに目は行っていない。引き出しの中にばらまかれていた便箋と、白い封筒の束。そして、何度も書き直した言葉たちの羅列。



そこには、あの時渡した手紙があった。


 


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