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本当は薄々、気づいていたのかもしれない。それでも気づいていない振りをしていたのは、彼を好きな気持ちが変わる筈ないと…信じていたから。
「…なまえ?」
椅子に座ってわたしの顔を覗き込む蓮二くんに、おかえり、とだけ呟く。どうした?と問い掛けてくる彼はやっぱり優しい。
『…ううん、何でもない』
「…そうか」
不服そうな顔をしていたけど、蓮二くんは何も言わずにいてくれた。それからわたしたちは特に会話をする事もなく、下校時間を迎えた。
『今日はありがとう。これで数学はバッチリだね』
「ああ、それは良かった」
家の前で、そんな会話をして。最後にまたありがとうと言えば、蓮二くんは優しく頭を撫でてくれる。
「また、明日」
『…うん』
ばいばい、大きな背中に言葉を掛けてわたしは家へと入った。
『……ふう、』
ぐー…と伸びをしながらまとめていたノートを眺める。提出課題もほとんど済ませたので、あとはほぼノートまとめだ。
『あともうちょっと…』
置いてあったコーヒーに手を伸ばして喉を潤しながらまた机へと向かう。
『…あれ、修正ペンどこやったっけ』
丸を付けた拍子に引っかいたのか、ノートの端に赤い筋が。
溜め息混じりに引き出しを開けた瞬間、手が止まった。
『……これ、』
手前にある修正ペンに目は行っていない。引き出しの中にばらまかれていた便箋と、白い封筒の束。そして、何度も書き直した言葉たちの羅列。
そこには、あの時渡した手紙があった。