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お昼休み、本当は行くのを断ろうかと思ったけど、流石に昨日の今日で断るのも…と悩みに悩んだ結果。…急いでお弁当を食べる事にした。
「…今日は速いな」
食べるスピードが、とその言葉にはそんな続きがあるのだろう。苦笑する蓮二くんに次の時間移動なの、と言ってお弁当をかっ込んだ。
『…ごち、ごちそさまでした…』
食べてる途中で何度か噎せたけど、何とか食べきることが出来た。立ち上がって扉へと向かうわたしに蓮二くんから「なまえ、」と声が上がる。ドキ、と一瞬だけ胸が鳴った。
「お前は理数科目が苦手だと、仁王から聞いたんだが」
『う、うん、そうだけど…』
「俺でよければ、教えさせてくれないか?」
『、え…?』
ぴくりと反応した肩にゆっくりと振り返ると、蓮二くんが目尻を下げながら笑っているのが目に入る。
「すまない、少し上からだったな」
『うっ、ううん。大丈夫だよ、でも…』
「…上手い言い訳が見つからないんだが、」
と、少し間を置いて蓮二くんは立ち上がったかと思えば、徐にわたしの身体を抱き留めた。
「…少しでも長く、なまえと一緒に居たいんだ。そんな不純な理由では、駄目か?」
『――…』
強く抱かれる身体と耳に響く声。言葉を発せないで居るのは、その行動とは真逆の声色が原因だった。
『(…何で、そんなにつらそうなの、)』
何で、そんなに泣きそうな声なの。
わたしの肩を抱く大きな手が、震えているかのように感じた気がしてならなかった。
まるで殺し文句みたいに発される言葉の羅列が、わたしには悲しいものにしか聞こえなくて。表情の見えないこの行動すら、わたしの心を抉る。
『…うん、じゃあ、お願いしようかな』
なんて、浮かべたくもない笑顔を浮かべてわたしは頷く。
わたしの答えを聞いても尚動かない蓮二くんの身体にソッと腕を回した。
だって、こうでもしなくちゃ、今目の前に居る彼が消えてしまうかもしれなかったから。
「…ありがとう」
紡がれたこの言葉すら、わたしには悲しいものにしか聞こえない。
少しでも長く一緒に居たい、だなんて、蓮二くんには時間がないの?…そんな筈、ないよね。
ねえ蓮二くん、それはつまり―――…
その言葉の続きを考えるのが怖くて、わたしは考えるのをやめた。