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休み時間に仁王くんと話していたら、さわりと教室がざわついた。
『?なんだろ』
「………あ、」
『どうしたの仁王く…』
声を漏らした仁王くんの視線を辿れば、そこには蓮二くんが居た。どうやら思ってもみない人の登場に、女子が騒いでいたらしい。そう言えばテニス部って有名だったなあとぼんやりしていれば、「仁王」と目の前で声が聞こえた。
「お、おお参謀。珍しいのう、どうしたんじゃ?」
「今日の午後はミーティングのみだと連絡が回ってきてな。それを伝えにきた」
「そう言えばテストが近かったけえのー」
「…ちゃんと勉強しておけよ。赤也のように赤点など取ったら、弦一郎からの制裁が待っているからな」
「俺を赤也と比べるんはよしんしゃい」
目の前で会話が並べられていく。わたしはというと、そのやり取りをただ横で聞いているだけ。仁王くんがたまにわたしの顔を見るけど、蓮二くんはわたしを視界にすら収めない。
「では、また放課後に」
「了解」
そんな事を考えていたら、会話は終了してしまったらしい。くるりと方向転換した蓮二くんに少しだけ目をやると、バチリ、視線が交わった。
『…!』
薄く開けられた目が、ふと優しく笑む。他の人にはわからないようなその仕種が、わたしに向いている。
『…れ、んじ』
くん。不意に呼ぼうとした名前に、彼は背を向けて、そしてゆっくりとした動作で教室を出て行ってしまった。
『あ…』
何でだろ。聞こえてた筈なのに。蓮二くん、と言葉になるかならないかの小さな声で呟いた。すると、わたしの知らず心情を察したのか、ポケットに入れていた携帯が震えた。
from:柳蓮二
sub:今日
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ミーティングが終
わったら、一緒に
帰らないか?
絵文字のないシンプルなメールに、わたしは短く返事を返す。その時の自分の顔がどんな表情をしてたなんて、わたしは知らない。