12
「…あの参謀がのう」
ちゅううとストローを吸う仁王くんにわたしは俯いて小さく頷いた。今はお昼休み、中庭のベンチでお弁当をつつくわたしたちの周りにはちらほらと生徒が居る。
蓮二くんにはさっき用事があるから、とメールで断っておいた。間を置くことなく返された返事に少し安堵したのは言うまでもない。でも一緒に帰る事を条件に出された。…なぜ。
「そんで罪悪感、感じとったんか」
『……うん』
「…なあなまえ、お前さんは参謀が嫌いか?」
『…えっ、き、嫌いじゃないよ!』
「でも、真田が好きなんじゃろ?」
『……う、ん』
そうだ。わたしは真田くんが好き。でも蓮二くんの事は嫌いじゃない。最初は少し苦手意識はあったけど、話しやすいし、優しいし。だからどっちかというと、好きって部類なんだと思う。
「……のうなまえ」
『なあに?』
「お前さんまだ参謀に本当の事言っとらんの?」
『………、』
「…ハァ、」
大袈裟な溜め息にびくりと肩が跳ねる。
…仁王くん、呆れてるよね。今までだって言う機会は何度かあった。でも、その度にあの時の蓮二くんを思い出して言葉が詰まる。きゅうって胸が締まって、苦しくて。そんな理由で言い出せないわたしは、弱虫だ。一番痛くて苦しいのは、何も知らない蓮二くんなのに。
「…すまん」
『……なんで、におくんが謝るの?』
「お前さんにそんな顔させるつもりはなかったんじゃ」
『……』
「……なまえ、」
『…?』
よしよしと優しく頭を撫でながら仁王くんはそう言ってわたしの耳元に唇を寄せる。
「別にええんじゃ、参謀に本当の事言えんくても」
『……』
「お前さんが言われた事断れんような性格じゃって事も知っとるし」
『……う、』
「ぶっちゃけ言うとな、俺は参謀や真田の事なんてどうだってええ」
『え…?』
ふと顔を上げると、思ったより仁王くんの顔が近くて驚いた。そんなわたしに仁王くんは笑みを深くして頭に唇を寄せた。…寄せた?
『…なっ、なななな…!』
「なまえのファースト頭チューいただきぜよ」
『仁王くん!』
けらけらと目の前で笑う仁王くんの胸をぽかぽかと殴ってやる。痛くも痒くもなさそうな笑みがむかつく!
「…俺はなまえがそうやって元気やったらそれでええんじゃよ」
『………え、』
「まあ、そういう事ナリ」
そう言ってわたしの頭をわしゃわしゃと撫でて仁王くんはへらりと笑った。その笑顔が少しだけ切なそうに見えたのは、わたしの見間違いだったのかもしれない。