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実際、柳くんとは面識があった。それは真田くんを介してだったけど。わたしはこの学校に外部受験で入ったから、中学生の時にテニス部がどれだけ有名かなんて知らなくて。たまたま同じクラスで隣の席になった真田くんと喋るようになって恋をした。そこに仁王くんも居たっていうだけだけど、柳くんとはそれほど話した事がない。
『うー…ん』
ただ部活の関係で隣のクラスから真田くんと仁王くんを訪ねてくるだけで、挨拶を交わすくらい(ほとんどは真田くんが受け答えしてたけど)。あ、でも一年の時は図書委員だったから図書室で話した事はよくあったかな。だけど、友達とも言い難いし知り合いだとも言えない。だから柳くんがわたしを好きだなんて、変だよね。
「別に好きになるやつが誰だって構わんじゃろ。実際一目惚れ言う便利なもんじゃってあるしな」
『…ねえ仁王くん、わたし口に出てたかなあ』
「人の心を読むのは得意ぜよ」
『仁王くんが怖い』
突っ伏していた顔を上げると仁王くんがこれまたニヤニヤした顔をしていた。今の時間は自習だから周りは騒がしいとは言っても、…聞こえてなかったよね、わたし。
「そう言えば次は昼休みじゃったのう」
『言いたい事わかるから遠回しに聞かないで…』
「ほーう」
『……これからお昼休み…わたしは姿を消します』
ずーん…という擬音がわたしを覆っているに違いない。仁王くんはというと、一瞬ぽかんとした表情を見せてからすごい楽しそうな顔をしてた。…絶対楽しんでるこの人。
「参謀もなかなかやるのう」
『でも生徒会室だよ?わたしあそこ行くのやだ…』
「ソファが気持ちええからいいじゃろ」
『ソファオンリーですか』
だめだ、仁王くんに何を言っても意味はないらしい。
この前一緒にお昼を食べてからというもの、メールでよくお昼に誘われるようになった。場所はいつも決まって生徒会室。どうやら生徒会の人なら自由に使っていいらしい。でもあそこ入るのに誰も見てないか確かめなきゃ入れないんだよ…!わたし役員じゃないし!それをわかってて場所に選ぶ柳くんはきっとわたしの行動を楽しんでるに違いない。
「ま、頑張りんしゃい。ほれ、これやるき」
『え…あ、チョコだ』
「ブンちゃんからパク…貰った」
『最初の言葉は聞こえなかった事にするね』
ありがとうと笑うと、仁王くんは笑ってわたしの頭を撫でてくれた。仁王くんて地味に優しい。