06
「…で、お前さんはどうするんじゃ」
放課後の教室で日誌を書くわたしの目の前では仁王くんが呆れたような表情をしている。
『どうって…何が?ぁいたっ』
首を傾げると、仁王くんは徐にわたしのおでこへデコピンしてきた。めちゃくちゃ痛かったんだけど…!
「さんぼーの事しかなか」
『……あ』
「…まさかだとは思うが、忘れてた訳じゃないよな」
『……』
…ごめんなさい仁王くん、完全に忘れてました。
そう言えばわたし、真田くんに告白しようと思って間違えて柳くんの靴箱に手紙入れちゃったんだった…!ふ、二人って同じクラスだもんね、仕方ないよね。
「普通告白する相手間違えるんか?」
『お願いだから掘り起こさないで…!』
案外傷は深いんだよ、仁王くん。一世一代の告白が、それも真田くんて古風なのが好きなんじゃ?っていう偏見から辿り着いた、ら、ラブレターが答えだったんだもん。ほら、真田くんって武士っぽいし…
「まああながち間違っとらんじゃろ。真田は考えが堅苦しからのう」
「…ほう、それはどういう意味だ?仁王」
「……あれ、まーくん幻聴が聞こえるナリ」
『仁王くん、これ現実だよ』
だらだらと汗を流す仁王くんに苦笑して、扉の前で腕を組んでいる真田くんに視線をやる。…あれ、そう言えばいつから居たんだろ。
『さ、真田くん、いつからそこに?』
「今しがただが…仁王がまた無断で部活を休んだのではと思ってな。日直だったのか」
「そ、そうぜよ。もう少し掛かるかもしれんし真田も部活に…」
『真田くん真田くん、仁王くんわたしに日誌任せてくるんだよ』
「…なに?」
「なまえ酷い!裏切ったナリ!」
ズンズンと近づいてくる真田くんに仁王くんは脱兎の如く教室を走り去ってしまった。…そんなに怖いんだ。
「仁王め…後で制裁だな」
『あはは、相変わらずだね、真田くん』
「む…そういうみょうじも、少し久しぶりだな」
『クラス変わってからあんまり話さなくなったからね』
一年の時同じクラスになってからよく話すようになった真田くん。二年生に上がってからは少しクラスが離れてしまって一年生の時より話す回数が少なくなっていた。たまに廊下ですれ違う時は挨拶とか雑談はするけど、こうやって話すのは久しぶりだなあ。…本当ならあの時話してる筈だったんだけど、今は忘れておこうと思う。
「ああ、もうこんな時間か。すまんなみょうじ、仁王の分まで頼む」
『任されました!部活、がんばってね』
小さく手を振ると、真田くんは優しげに口元を緩ませてありがとうと言ってくれた。…ああどうしよう、わたし絶対顔にやけてる。
『…すき、だなあ』
ぽつりと呟いた言葉は小さくなって消えていく。さらりと動かしたシャープペンに、わたしはまたほんのりと笑みを溢した。
今日は、イイコトがありました。