02
一日とは早いもので、現在放課後。屋上のフェンスでわたしは下校中の生徒をぼんやりと眺めていた。ドキドキと高まっていく鼓動に辺りの音はまったく聞こえて来ない。
『…うああどうしよう…』
すごく逃げ出したくなって来ちゃった…!今になって怖くなってきたよ!助けて仁王くん…!と、薄情ながらニヤニヤと笑って部活へと去っていった仁王くんが今はとても恋しい。
『うう…』
心なしか涙目になってきた気がする。ずびっと鼻を啜った瞬間、ギィ…と扉の開く音がして途端に身体が硬直した。
『(き、来た…!)』
こつこつと近づいてくる足音に、わたしは振り返る事すら出来ない。すぐ真後ろにまで気配が迫って、足音が消えた。
『あ、あ、あのっ、』
とりあえず何か話さなきゃ、と思い出た言葉に彼は反応しない。大きく深呼吸して、俯きながら振り返る。わたしの視線には彼の靴しか見えていない。
『て、て、て、手紙、読んでくれました、かっ?』
「……ああ」
『えと、その、書いた通り、なんですけど、』
視線があっちこっちに彷徨う。なかなか出てこない言葉に、上から小さく笑う声が聞こえた。
「ゆっくりで、いい」
…そんな優しい言葉、聞いた事ないよ。
『わた、わたし……ずっと、あなたが好きでした!』
真田くん!
ゆっくりでいい、その一言で胸の重りがストンと落ちた気がする。心の中で彼の名前を呼びながら、わたしは深く深く頭を下げた。
「……」
真田くんは何も言わない。別に彼女なんて、そんな大それたものになりたい訳じゃない。ただ、伝えたかっただけ。それだけでわたしは十ぶ「…俺もだ」……、え?
『…ん?』
ちょっと待って、今俺もって言った?ぐるぐると回る言葉に、目の前の彼は、「俺も、好きだ」と言ってくれた。…のは、よかったんだけど。
『(あれ、そう言えば真田くんてこんな声だったっけ…)』
緊張して違和感に気がつかなかった。風邪…は真田くんなら引かないだろうし。低いのは低いんだけど、目の前の人の声はすごく優しい感じがする。それにどこかで聞いた事があるような…
恐る恐る顔を上げていくと、ぴしり、身体が本当の意味で硬直した。
「…?大丈夫か、みょうじ。顔が真っ青だが」
『………やな、ぎ、くん』
うそ、何で、なんて言葉は宙に消えていく。考えられるのは…
…どうやらわたしは、手紙を渡す相手を間違えてしまったようです。