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報われない雪男(真田ver.)


壊れてしまえばいいのに。
確かに今、私はそう思ったのだ。遠目に見えた彼とあの子の姿に、胸の中に渦巻いていた黒い塊がぱちんと音を立てる。
放課後の屋上、給水タンクに背を預ける私の視線の先には失恋相手の男と、彼女の姿。ひどく優しげな表情で笑う彼の姿を私は見たことがない。一番近くに、一番長くいた筈なのに。結局幼なじみというやつは、家族にしか見られないのだ。私は一度だって家族として見たことはなかったのに、名前は不器用だな、と苦笑したもう一人の幼なじみが頭に浮かぶ。何年も前からずっとずっとあの人だけを見てきたのに、今隣にいるのは私じゃない。幼なじみという関係を壊してしまうのがいやで伝えられなかった私は臆病者だ。不器用、なんてものじゃないよ。震えそうな肩を抱いて少し深呼吸する。ひゅ、と喉を掠めた風が妙に染みてなんだか泣きそうになった。



「…名前?」



かんかんと音が聞こえる給水タンクに続く階段へ視線をやると、見えた黒の帽子。学校でも被ってるなんて校則違反じゃないの?と笑ってやりたいけど、あいにく今口を開いたら泣きそうだ。



「危ないだろう、そんな所に居たら」



うるさいなあ、いいじゃない別に。真田には関係ないでしょ?目で訴えるも眉間に皺を寄せる真田は構わず私の近くまで歩いてきて、同じように給水タンクに背を預けた。



「………」

「………」



二人して無言で下校していく生徒の背を眺める。さっきまでいたあの二人の姿はもうない。良かった、なんてほっとしてる自分がいて無性に笑いたくなった。



「……名前、」



ふと、上から降ってきた声に見上げると、帽子の鍔で顔を隠した真田が視界に映る。普段人と話す時は目を合わせる真田が珍しいなあ、なんて思ってああ、と一人納得した。きっと真田は知ってるんだ、私が今まで目で追っていた人を。



「私ね、壊れちゃえばいいのにって思ったの」

「……」

「だってそうでしょ?あの子よりずっとずっと蓮二を見てきたのは私なのに、……私、なのに、選ばれたのは、あの子だから、」

「……」

「そんなことばっかり、頭がいっぱいになっちゃって、だめだよね、私、本当いやな女だ」



本当は悔しかった。でも、それよりずっと後悔してた。私は蓮二を見てたから、幸せになって欲しいって、思ってたから。そう思える人が私ならって、気持ちを伝えられない癖に思い込んで。あんなに幸せそうに笑う蓮二、見たことなかったのに。壊れてしまえばいいのにって。私、本当にばかだ。



「…っごめ、真田、勝手になに言ってんだろうね、私」

「……笑うな」

「え?」

「無理に笑わなくていい。…俺は、お前のそんな顔が見たい訳じゃない」



俯きがちだった真田の顔が上がって、ひどく切なそうな表情の彼と目が合う。そして一瞬、腕が引かれたかと思えば広い胸が視界いっぱいに広がっていた。



「さ、さな」

「…壊れてしまえばいいと、お前は言ったな」

「、……」

「俺も、そう思っていた。お前が蓮二を想う気持ちなど、壊れてしまえばいいと」

「さ…」

「俺はずっと、お前が好きだった」



耳元で静かに響いた低い音は、私の大好きだった彼のものと似ていて、苦しいくらいに抱き寄せられた身体はまったく違うものなのに、何故か心地よく思えた。苦しそうに謝罪を述べた彼の言葉はまるで針のように身体を突き抜けていく。ほろり、頬を伝い彼の服に染みを作っていく涙を、私はただぼんやりと眺めていた。



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報われない雪男、真田バージョン。
実は最初真田で書いたものだったけど、雪男のが書きやすかった…(笑)真田ごめんね。
でも消しちゃうにはちょっと…と思いここに上げました(コソコソ
 

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