愛玩ベイビー | ナノ

「………邪道だ」


…私今、身に染みる程の怒りに拳を握り締めております。

そんな私の目の前には愛しい愛しいなまえが見目麗しいメイドさんという日本が生み出したまっこと萌えの象徴とも呼べる姿をしている。(ちなみにメイド姿になるまでの経緯はどうか察して頂けると嬉しい)
…が、そのなまえの足が問題なのだ。


「メフィスト?何か言った?」


くるりと振り返って小首を傾げる彼女は今すぐにでも襲ってしまいたい程愛らしく可愛らしい。
…が、もう一度言おう。足だ、なまえの白くて美しく肉付きの良いおみ足が…


「邪道だと言ったんです!」
「…ふぇっ!?」


びくう!と肩を震わせるなまえに可愛いなと思いつつも視線はある一点を離さない。

…普通、メイドさんと言えば黒のシンプルな生地に映える白のエプロンとフリルをあしらって出来ている。だが、忘れて貰っては困る。メイド服とはただ単に、半身だけで出来ている訳ではない事を。メイド服とは、全体を、全てを指し示しているという事を!


「……なまえ、ニーハイはどうしたんです?」


思った以上に低い声が地を這う。私の言動が恐ろしいのか、なまえはどもりながらも口を開いた。


「あの、えっと、さ、寒かった…から、」
「…ほう?寒かったから…ニーハイを履かなかった、と」
「…は、はい」


…それは誤算でしたね。確かに今の季節、暖かいとは言い難い。屋外でティータイムを楽しむには少々難がありましたか。


「では中に戻りましょう。そしてすぐにニーハイに履き替えてください」
「…え、何で?これじゃだめなの?」


これ、と目配せするなまえの足を覆う忌々しいアレを睨み付けながら首を横に振る。…黒タイツなど、誰が認めるものか。お蔭でなまえの美しいおみ足を拝む事が出来ないのだから。


「しょうがないなあ……って、あ、」
「…?なんです、…か」


ふと声がしたと思えば、なまえは小さく溜め息を吐いている。なまえの視線を頼りに辿っていくと、どうやらタイツがいつの間にか伝線していたらしい。小さな裂け目が出来て、そこから白い肌が見えていた。


「あ…気づかない内にどこかで引っ掛けちゃったんだ。丁度良かったね、メフィス…ト?」


不思議そうな顔をしたなまえが首を傾げて私を見る。…が、私はなまえの足から目を逸らす事をしない。…否、出来ないのだ。


「(…なんという事だ)」


漆黒のタイツから溢れる純白の肌。黒の中に生まれるその白は背徳的でいやらしく、官能を沸き起こさせる。


「(黒タイツ…侮れん)」
「メフィスト…?」
「…なまえ、タイツはそのままで結構です。ニーハイはまた後日という事で。…ああ、とりあえず部屋に戻りましょうか。肌寒くなってきたので身体を暖めなくては風邪を引いてしまいますね。少し運動すれば大丈夫ですよ」
「え?え?」


おどおどとするなまえの肩に手を置いて部屋へと誘導する。さて、このタイツはどう活用すべきか…所々裂いていくのもいいですねえ。…紳士たる者、如何なる時もいやらしさを追及しなくてはなりませんので。…断じてそのような性癖がある訳ではありませんからね。


「…さて、手始めにどうして差し上げましょうか」


小さく呟いた独り言はどうやら彼女には聞こえていない。
視線を下に落とせば、ニーハイとスカートとの間に生まれる筈の絶対領域は黒に犯されている。
以前の私ならば既に発狂しているだろう。しかし、今の私は違っていた。


「(黒タイツ……イイ)」


メフィスト・フェレス、職業悪魔。ニッポンの文化に入れ込み早数十年、まだまだ此処には数知れない萌えが存在するらしい。



黒タイツに目覚める理事長



2012/03/16
2013/02/07 加筆
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