きっと私は、初めて会った時からこの人の目に囚われていたのだろう。
-Forth day-
『…阿近さん』
「……あ?」
煙草を吹かしながら横目で私を見やる阿近さんに、どうしてあんな事をしたのかと胸を掴む。
『な、何でも…ない、です』
「…そうか」
昨日はタイミングが良いのか悪いのか、リンくんが入ってきてくれたからそれ以上は何もなかった。…けど、阿近さんはその事について何も触れない。
(…やっぱり、からかってただけなんだ)
自分でもどうしてここまで悩むのかわからないけど、胸がもやもやしてすごく気持ち悪くて。
リンくんの所に行こうかなと、出来上がった薬品を棚に置いて部屋を出ようとしたら阿近さんに呼び止められた。
「そういやお前、戻りたいって言ってたよな」
『え…あ、隊にですか?』
「…ああ」
パタンと手に持つ資料を閉じると、私を見上げて小さく阿近さんは笑った。
「局長に掛け合っといた。日程はいつになるかわからねぇが、早いうちに十一番隊に戻れるぞ」
『、え…』
良かったな、とそう言う阿近さんの顔が目から離れない。
…嬉しい筈なのに、どうして心から喜べないの…?
私、何で…
『…そ、ですか。ありがとう、ございます』
「……あぁ。また何かわかったらすぐに伝えてやる」
『………はい』
じゃあ、失礼しますね。と小さく呟いて、私は部屋を出た。
足早に廊下を歩きながらぎゅうと胸を押さえる。
『……っ、』
何で、どうして、こんなにも胸が痛いの。
わからない…皆の所に帰れるのに、皆と一緒に笑い合えるのに。…何で。
ピピピピピ…
『っ、あ…』
白衣のポケットから聞こえる音に、足が止まった。
『い、かく…さ…』
ディスプレイに表示される名前に、私はそのままその場へと座り込む。
耳に届く声は、やけに懐かしく聞こえた。
2011/11/16
2013/02/23 加筆
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