何故かわからないけど、阿近さんに頭を撫でられる事は嫌いじゃない。それはただ、撫でられる事に抵抗が無いからなのか。
…でも、その度に胸がドキドキするのは何でなんだろう。
-Third day-
「…苗字?」
『あ、は、はい!』
ぼぅ…と阿近さんの横顔を眺めていれば、不意に名前を呼ばれて声が裏返る。
「何ボーッとしてんだ。おら、今言った事やってみろ」
『う…はい』
私は今、阿近さんと二人で実験演習をしている。
私の飲み込みの良さを買って、デスクワークだけでなく演習までしてくれるようになったのだ。
『え…と、これとこれを混ぜて…』
「違ェだろーが!!爆発するだろ!何聞いてんだてめェは!」
『痛い!』
…すんごいスパルタだけど。
殴られた頭に涙目になりながら言われたそれを混ぜて、すりおろした薬草や液体を調合する。
「……お、いい色になったな。お前意外と才能あるじゃねぇか」
『ほ、本当ですか?』
「ああ」ま、俺以下だけどな。と意地悪く笑う阿近さんにムッとするけど、どこか嬉しい自分が居る。
やっぱりこの人に褒められるのは、嬉しい。
「…このままなら実践でも使えそうだな。苗字、明日も今日と同じ事やってみろ」
『は、はいっ』
「元気だけはいいなァお前」
…ククッと喉を鳴らしながら笑う所とか、今みたいに煙草を銜える指とか。
何だろう…
『……色気?』
「…あ?色気?」
『あ…な、何でもないです!』
思っていた事が口に出ていたみたいで、慌てて否定する。
鋭い(とわかった)阿近さんはニヤリと笑うと、煙草を近くにあった灰皿に押しつけて私の腕を引いた。
『きゃ、ぁ…!』
仮眠用に置いてあったソファにそのまま押し倒されて、阿近さんが私の上に馬乗りになる。なんとか逃れようと身を捩るけど、意味なんて成さなかった。
『ど、退いてください阿近さんっ』
「…嫌だっつったら?」
『な…っ』
ニヤニヤとまるで私の反応を楽しむように笑うこの男。
『何が楽しいんですかっ!』
「ククッ…お前自分の顔見てみるか?耳まで真っ赤だぞ?」
『あ、当たり前じゃないですか…!こんな事されたら誰だってこうなりますよっ』
「ふーん?」
つぅ…と顎を撫でたり、頬を撫でたり。それが止まったかと思えば、真剣な表情で私を見下ろす。
『あ、阿近さ…』
「…黙ってろ」
ソッと頬に手を添えられて、唇に阿近さんのそれが近づいてくる。
まさか、と予感が過って、抵抗など出来ない私は目を瞑る事しか出来なかった。
「………ガキ」
『…は?』
ポソリと聞こえた言葉に瞑っていた目を開けると、ククク…とさぞ楽しそうに笑う阿近さんが居た。
『な、な…!からかいましたね!?』
「…ククッ、俺は別にしても良かったけどな」
『…!』
この人はどれだけ人をからかえば…!
『最っ低です!阿近さんなんか嫌いっ』
退いてよー!と阿近さんの胸をぐいぐい押して、やっとの事で起き上がった私の腕をさっきと同じように掴まれる。
『もう、いい加減に…』
「…さっきの」
『え?』
「さっきの言葉、本気だったらどうする」
そう私に問い掛ける阿近さんの目は、男の色をしていた。
2011/11/16
2013/02/23 加筆
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