私が新しく配属された隊は、十二番隊の傘下にある技術開発局。隊ですらない、変人達の溜まり場だという。
-Begins day-
何故私がそんな研究だの、実験だのする所に移動になったかは定かではない。
『……私あの隊長好きじゃないんだけどな』
胡散臭い男の下で働かなければならない事に、私は重く溜め息を吐いた。
決して軽いとは言い難い足取りで技局へ向かう私の心はそれと同じように沈んでいる。
技術開発局と書かれた敷地に足を踏み入れ、見上げたモノについ声を出しそうになった。
(…うわ、気持ち悪)
うねうねと気持ちの悪い虫のような看板に顔を歪めながらも呼び鈴を押せば、白衣を着た男が面倒くさそうに重たい扉から出てきた。
「……誰だ?」
『…今日付けで配属になった十一番隊第四席、苗字名前です。そちらに連絡が入っているかと思いますが?』
誰、というその言葉に多少苛つきながらも早口にそう言うと、角を生やした男は「……あぁ」と私の身体を観察して「ドーゾ」と扉の中へ私を招き入れた。
(……読めない男)
前を行く男の背中を眺めながら心の中で呟いて、そう言えばと思い出したのは一角さんが言っていた言葉。
(阿近…さん、だっけ)
彼奴は頼りになるぞと豪語していた上司の顔を思い出しながらクスリと口元に笑みを浮かべる。
それを彼に見られていたなんて知る由もなかったけれど。
「…局長から聞いてる。とりあえずお前は俺の補佐をすればいいんだとよ」
カチャリとある扉を開けて中へ入る阿近さんの後を追って部屋に入ると、そこは実験室だったようで、試験管やホルマリン漬けにされた臓器など様々なものがあった。
『補佐、ですか』
「あぁ。…ま、正確に言えば「何もするな」って所だろ」
『…?どういう意味ですか?』
言っている事がわからなくて小首を傾げる私に、わからねぇのか?と少し眉間に眉を寄せた阿近さんが白衣のポケットに手を入れて私に近づいてくる。
「うちの局長が今さら移動してきた、しかも十一番隊の隊士に仕事を任すとでも思ってんのか?…お門違いだな。あの人は生憎完璧に仕上がった局内を荒らされたくないのさ。ましてや犬猿の仲である更木隊の隊士…わかるだろ?」
口角を上げながら私を壁際に追い詰めて、トンと顔の横へ腕を置く。
「…お前は何もせず、邪魔にならないようお茶汲みでもしとけって言ってんだ」
目の前の男は私の耳元に唇を寄せて、そう低く言い放った。
……ああ、そう言うこと。何もするな、深く関わるな、内を乱すな…そう言いたいわけ。
『……お言葉ですけど』
ニヤニヤと私の反応を見るように見下ろす男の胸元を引っ付かんで、満面の笑みを浮かべてやる。
『私、そんなに大人しいイイコじゃありませんから。…それに更木隊、あんまり卑下しないでくれますか?』
腐っても戦闘部隊、舐めんじゃねーよ。
「…!」
鋭い目をこれでもかと見開く男の胸元から手を離して、
『これからよろしくお願いしますね、阿近さん』
私はにこやかにそう言ってやった。
2011/10/21
2013/02/23 加筆
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