▼ Cattleya / カトレア : 魅惑的 1/2
そんななまえとの出会いの翌日。
朝早くからパチンコ屋に出向き、ものの数時間で大負けした俺は、ケッと万事屋までの道を不機嫌に歩いた。
…俺が何したって言うんだよ、クソッ!絶対ェあの後出ると思ったのに…ハァー。シュークリーム食いてェー、パフェ食いてェー。でも金がねェー。
そんなことを思いながら空を仰ぎ、心の中で咽び泣く。
…いや、もうマジで泣きそう。
そうして万事屋の下についたところで、何やら新八と神楽のギャーギャー喚く声が聞こえてきた。こんな朝っぱらから何してやがる、あのガキ共。
階段を上がって玄関に着くと、見慣れない下駄。ふと花を掠める甘い花のような香り。
…客か?それにしても、ウルセーな、あいつら。
「ったく、クソガキ共、ギャーギャーうるせーんだよ。近所迷惑だろ、ちったァ考えろ」
居間の戸を引いて、そう怒鳴ったところで、二人の他に見慣れない顔がいた。
お、マジ!?なんて心臓が高鳴った。そんな気持ちは表に出さず、しれっとそちらへ視線を移した。
「あんたはなまえ、っつったか。どーしたんだ、早々御依頼か?」
「いえ、先日の報酬をお渡しにきました。その節は大変失礼致しました」
名前なんて当たり前に覚えていた。何せ昨日会ったばかりだし、そもそも好みの女の名前を忘れるなんて真似、俺がするわけねェ。それなのに何か気恥ずかしくなって、そんな言い回しをした俺に気に留める様子もなく、礼儀正しく頭を下げて封筒を渡してきた。
…どこまでもいい女だな、わざわざ出向いてくれて、しかもこんなに礼儀がなってるなんてよ。
「こんなにデキた女が銀ちゃんのコレなわけないアル。新八、見る目ないなお前」
何こいつ突然失礼なこと言っちゃってんの、なんて言うより先に、新八がくだらねェ自己紹介を始めたところで、俺はいいことを思いついた。
「お前、昼食った?」
「いや、まだです。用が済んだらとろうかと思っていたんで」
ラッキー、と心ん中でガッツポーズを決めた俺は、訝しげな顔をするなまえに、ニンマリと笑って見せた。
「んじゃ、金も入ったことだし、たまにゃファミレスでも行くか」
「えっ?」
「キャッホゥ!銀ちゃん太っ腹アル!」
これで少しはお近づきになれんだろ、とニヤける口元を抑えると「え、あの、」と困ったようななまえの手を引いて、神楽は早々に表に出て行った。こういう時の神楽ちゃん、マジナイス。
フッフーン、と鼻息交じりにブーツを履いている俺の後ろで、新八の小さな溜め息が聞こえた。
「銀さんてば、本当にわかりやすいですよね」
呆れたように笑う新八に、放っとけ、と笑って見せた。
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