beniiro tear | ナノ


▼ Rose / 薔薇 : 最愛 (11本) 1/2




「なまえ、もう上がっていいわよ」

「ありがとう、鈴さん」


もう季節は秋。この前秋を迎えたような気がしていたが、時間というのは年を取るたびに早く過ぎていく気がする。このフラワーショップ鈴の店内にも、コスモスやダリア、ゼラニウムといった秋の花が沢山咲き誇っている。お客様の対応に走り回っているとあっという間に夕方になってしまった。熱中していると時間が過ぎるのが早い。ふぅ、と一息ついたところで鈴さんが声をかけてきた。


「もう銀さんが迎えに来る頃だろう?早く帰り支度しなさいな。いつまでも熱々で見ているこっちがのぼせちゃうわよ」

「だって、迎えに来るって聞かないのよ。私はいつも断ってるんだけどね」

「あぁ、そうなのかい?そうだ、なまえ、銀さんにはもう…」

「オイオイ、なまえちゃん。彼氏の愚痴は女子会かなんかでしてくんねーか、丸聞こえだっつーの」


入り口に背を向けて話していたせいで、その存在に気付かず、驚いて振り返った。鈴さんは言いかけた言葉を咄嗟に引っ込めた。不満そうな顔をしながら、店先に立つ銀時に鈴さんは笑いながら近寄った。


「あら、銀さん!噂をしていれば」

「鈴さん、頼むよ。俺結構ハート弱いんだからさ」

「もう、鈴さんに絡まないの。さ、待たせてごめんなさい、帰りましょ」


へいへい、と拗ねたような表情の銀時と私は鈴さんに手を振りながら、家までの道のりを歩く。あれから早いもので、もう一年の時が過ぎようとしていた。あの後すぐに仲を取り持ってくれた新八くんと神楽ちゃん、お登勢さんたちにお礼を言いに行ったっけ。


・・・・


「ご迷惑おかけしてすみませんでした」

「なまえさん、頭を上げてください!迷惑なんて、そんな…」

「よしなよ、なまえ。こっちこそこんな出来の悪い男を野に放って悪かったね」

「ババアの言う通りアル!銀ちゃんがいつまで経ってもヘタレてたから悪いアルよ!なまえが謝ることないネ!」

「…黙って聞いてれば、お前ら何なの?」

「それでも皆さんがいなかったら、私たちこうなれていなかったかもしれません。本当に感謝しきれません。…ありがとうございます。」

「…ったく、こんなによくできた娘が、何でこんな男に引っ掛かっちまうのかねぇ」

「オイババア、テメーは少し黙ってろ!いや、永遠に黙らせてやろーか!?」



・・・・


なんて、銀時は怒っていたけど、本当は知ってるの。私がいないところで、みんなにお礼を言ってたこと。それに神楽ちゃんに酢こんぶをたらふく食べさせる約束をしていたこと。…そして、私にはもう一人、お礼を言わなければならない人がいた。最後まで嫌がる銀時を引き連れて、スナックお登勢の次に訪れた場所。



・・・・


「…十四郎、ありがとうね」

「気にすんな、俺が好きでやったことだ」

「……」

「テメェこそ一番感謝しろよ!この万年金欠ニートが!」

「っせーよ!!元はと言えばテメーのせいでこうなったんだろーが!謝れ!俺たちに謝れ、このクソポリ公!!」

「んだとォ!?!!」


顔を合わせたと同時に勃発する喧嘩を、必死に仲介しながらも何とか銀時もとっても不本意そうに、とっても小さな声で「…感謝してる」と言ってくれたので、まぁよしとする。


「姐さん、旦那に泣かされる前に、俺で手ェ打っときやせんかィ?」

「…そうね、考えとくわね」

「なまえちゃんんん?!速攻浮気?銀さんそーいうの本当無理だからね!?」


なんて銀時の意外な一面を見れて、総悟くんと笑ったんだっけ。十四郎はぶっきらぼうな態度だったけど、私にはわかった。今までとは違って、ちゃんと祝福してくれてるんだってこと。



・・・・・



「なまえ?」

「あ、ごめんなさい。少し懐かしいことを思い出していて」

「ふーん、奇遇だな、俺もお前と出会った時のこと思い出してた」


え?と覗き込むと、銀時はとても優しい笑顔を私に向けてきた。もう一年近く一緒にいるのに、不意に見せるこの優しい笑顔に、私の心はぎゅっと鷲掴みにされたように苦しくなる。


「いや、マジ色々あったなーと思ってさ。今こうしてるのが、夢みてーだよな」

「私も、本当にそう思う。だから、いつまでも大切にしたいって思うの」


向けられた笑顔と同じように、私も優しく笑みを浮かべた。いつまで経っても初々しい気持ちで居られるのは、あの日々があったから。そう思っているのは、私だけじゃないようで、ほっと心が温かくなった。





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