beniiro tear | ナノ


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ずっと触れたかったその温もりを俺は噛みしめるように強く抱きしめ、彼女の首元に顔を埋めた。自身の胸の中で震えながら涙を流すなまえを、心底愛おしく思う。


「本当に悪かった。あんなことして許されるなんて思ってねェ」

「…っ、私こそ、勘違いさせてしまって、ごめんなさい。十四郎…土方さんとは何にもないの。本当です、信じてください」

「俺の腕ん中でこんな泣いてるやつの、何を疑えってんだ、バカヤロー」


なまえの頭を撫でながら、鼻いっぱいに彼女の香りを吸い込んだ。ずっと会いたかった、ずっとこうしたかった。もう二度と叶わねェと思ってた。俺はどこか夢見心地な気分だった。


「…お前、居酒屋で俺に言ったんだよ」

「…え?」

「"普通の恋がしたい"って」


俺の言葉になまえは腕の中から顔を上げた。つられて彼女の顔を見下ろすと、驚いたような気まずいような表情を向けてきて、俺は眉を下げた。


「私…そんなことを」


「いや、今思えば酔っ払いの戯言だってわかる。だけどあん時は結構俺もいっぱいいっぱいでさ。もう手ェ出しちまった以上、お前が望んでる関係とは程遠くなっちまって。欲に任せてお前を抱いたこと、ずっと後悔してた。身体だけの関係になりたかったわけじゃなかったのによ」


なまえはまた涙を浮かべて、ふるふると首を振った。


「私もずっと、そう思っていました。何であんなこと言ってしまったんだろう、って。でも、今は後悔していません。だって、私たちは身体だけなんかじゃなかった。…ちゃんと心も、繋がっていたんですから」


涙を流しながら、照れたように笑うなまえに俺の中にあった全ての負の感情が溶けて消えた。ずっとこの笑顔が咲いていてくれればそれでいい、そんなことを思っていたけど、実際は違った。俺だけのものになってほしいと、ずっとそう思っていた。


「…なまえ、ずっと言いてーことがあった」

「……はい」


俺はなまえから離れて、彼女の両頬に手を添えて、親指で頬を伝う涙を拭った。大きな目で俺を見上げるなまえの瞳を覗き込むようにして、俺は小さく深呼吸をする。


「なまえ、好きだ。…初めて会った時からずっと、…お前が好きだった。すげェ遠回りしたし、思ってもねェことばっかり言って、傷つけたのもわかってる。でももう、これから先はずっと、もう泣かせたりしねェから…だから、」

「……」

「…幸せにする。だから、…俺の女になってくんねェか?」


一世一代の大勝負。自分がこんなセリフを吐くなんて、一生訪れないかと思ってた。それでも別に誰に教えられたわけでもないのに、意外とこんなセリフがスラスラ言える自分に、内心驚いた。そんな俺をよそに、なまえの頬には拭ったはずの雫が一筋二筋と零れ落ちる。…もう泣かせねーなんて言っときながら、もう既に反故しちまった。


「…私も、銀時さんが、…ずっと好きでした。こんな私でよければ、…よければ」


どんどんなまえの顔が歪んで、決壊したように涙が溢れ出す。俺は慌ててその涙を何度も拭うが、意味をなさない。咄嗟に彼女をまた胸に押し付けて、頭を撫でた。


「もう泣かせねーつもりだったんだけどなァ」

「…ごめ、なさ…っ、でも、…こんなの、夢みたいで、ずっとこうなれたらって…思ってたからっ…」


声を震わせながらなまえは、俺の着流しを握りしめた。俺は困ったように笑って、頭を撫でながらなまえが落ち着くのを待った。…俺だって夢みてーだよ、自分の好きな女が同じように自分を思っていたなんて。今回は、もしかしたら、じゃない。ずっと触れたかった彼女の本心。あんなに手が届きそうになかった彼女は、俺の腕の中にいる。俺はたまらなく満たされていた。


「…なァ、」

「…はい」

「依頼、されちゃくれねーか」


少し落ち着きを取り戻した彼女の耳元で、俺は小さく囁いた。彼女はピクリと身体を揺らして、同じように小さく返事を寄越した。その動作に俺は思わず口元を緩ませた。


「抱かせてくんない?…恋人として」


パッと顔を見上げた彼女は、驚いたように目を見開いて、すぐに恥ずかしそうに目を伏せた。途端に顔が赤くなって、また胸に顔を押し当て、静かに頷いた。





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