beniiro tear | ナノ


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それできて帰宅早々に新八までにも、背中を押されるどころかケツを蹴られちまったってワケだ。行く当てのない俺は、あの日以来一度も訪れていなかった馴染みの居酒屋へ足を運んだ。あのバカ店主のツラでも見りゃちったァ気が紛れんだろ。



「銀さん、俺ァ見損なったよ。アンタは久々に見る芯の通った男だと思ったんだがなァ。自分の気持ちも伝えねェで、尻尾巻いて逃げて来ちまうなんてよ」

「…」


もう何なの、どいつもこいつも俺の心ズタボロにして、これ以上どうしろっつーの。俺は注がれた熱燗をぐいっと呷り、頬杖をついた。土方のヤローに余計な発破かけられたせいで、俺の気持ちはどこか焦っていた。…なまえが俺を。嬉しくないといえば嘘になる。そうであって欲しいと願っていたのだから。それでもこんなに気持ちが浮かない原因はただ一つ。


『こんなの、いやぁっ』

何度消えてくれと願っても、それがとうとう叶うことはなかった、彼女の泣き顔。俺は抵抗する女を手篭めにした。それも、自分の惚れてる女を、だ。今更彼女にどんなツラ下げて会えばいい?勘違いだったわ〜なんて笑って済ませられる話なんかじゃねェ。俺は、自分が大切にしていた女を、自身の感情を抑えることもできずに無理やり抱いた。挙げ句の果てに、自身の気持ちを保つために、非情な言葉を散々吐いた。そんな男のツラなんざ、死ぬまで見たかねェだろうよ。


「…銀さん、今からでも遅くはねェんじゃねーか?」

「ったく、人の気も知らずに、他人っつーのは勝手なことばかり言いやがる」

「一回躓いたくれェで、もう手に入れるのを諦めちまえるほどの存在だったのか?」

「…あァ?」

「お前さんにとって、その彼女ってのは、それっぽっちの存在だったっつーことなのか?」


オヤジの言葉が、ひどく心に突き刺さる。…んなわけ、ねェだろーが。何度思い出してもあの泣き顔は消えない。その代わりに同じように何度だって瞼の裏に浮かぶ、彼女の柔らかい笑顔。見てるこっちまであったかくなるよーな、春の花みてェな、あの笑顔。俺はあの花が枯れないようにと、ずっと咲き誇れるようにと。…それを一番傍で護りてェんだと。ずっと、そう思ってたんだ。


「…オヤジさん、勘定」


立ち上がった俺に、オヤジさんはにかっとこれまたあったかい笑顔を向けてきた。


「こいつァ、俺の奢りだ、銀さん。その代わり次来るときゃ彼女も一緒に連れてきな」


ポカンと間抜けな表情でオヤジさんを見つめると、バンバンと大袈裟に俺の肩を叩いて、いつだか俺がしたように、笑顔でVサインを向けてきた。
居酒屋を出るなり、俺は駆け出していた。走ってなまえんち向かうより、万事屋寄ってバイクで向かった方が早ェかと、全速力で万事屋に向かった。

そして万事屋についた俺を出迎え人物に、言葉を失った。


「銀さん、遅いですよ」

「どこほっつき歩いてたアルか?早く行くヨロシ!」


そこには俺のヘルメットを手に持った新八と、何故か花束…とまではいかねェ数本の赤い薔薇の束を持った神楽。その後ろには煙草を吹かしながら、呆れたように笑うババアに、モップ持って微笑むたまがいた。


「…お前ら…」

「お前ってヤツは、どこまでも世話のかかる男だよ」

「銀時様。…皆、銀時様の恋路を応援しています。ですから頑張ってきてください」


新八と神楽が駆け寄ってきて、ヘルメットと薔薇の束を俺に手渡す。素直にそれを受け取った俺は、思わず俯いてしまった。あんなに、ひでェこと言って出てきちまったのに。こいつら、俺のことを…。


「銀さん、モタモタしてる場合じゃないですよ!なまえさん、週末に引っ越しちゃうって言ってました!」

「…引っ越し!?何それ、聞いてねェよ!?」

「このままだと一生会えなくなっちゃうアルよ!銀ちゃん、なまえのことまだ好きなんでしょ、早く捕まえに行かなきゃダメアル!!」


…引っ越すだと?そんなこと聞いてねェ。…まさか土方のヤロー、それを知ってて俺に発破かけやがったんだな。クソ、そうならそうと言ってくれよ。不器用か、高倉健かアイツは!なんて脳内一人ツッコミをしていた俺に、新八と神楽はニコリと笑顔で俺を見た。


「銀さん、頑張ってください」
「銀ちゃん、頑張るヨロシ!」


俺はその言葉に笑顔を向けることしかできず、花束片手にバイクに跨がり、皆の笑顔を背負ってなまえの家へとバイクを走らせた。




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