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「何言ってんだ、テメェ糖分摂りすぎでとうとう頭イかれちまったのか」
「テメェこそニコチン摂りすぎで記憶障害起こしてんじゃねェのか?自分の女のことも忘れたのかよ?」
「俺たちゃお前が思ってるよーな間柄なんかじゃねェぞ」
「……へ?」
呆れたような顔でため息をつく土方に、俺は何とも間抜けな声を上げてしまった。煙草に火をつけて、フゥと煙を吐き出す土方から目が離せない。
「…はァ?だって、あの夜仲睦まじく歩いてたじゃねェか。それに、十四郎なんて呼ばれてたじゃねェかよ」
「そんなんテメェの脳内補正だろ?あいつァ俺の旧い友人なんだ。身寄りのねェあいつに懐かれたもんだから、真選組ぐるみで可愛がってたってだけだ。信じらんねェなら近藤さんや総悟に聞きゃわかる」
「なんだよ、それ…」
「テメェらのことはあいつの口から聞いたんだ。一月ほど前に職場で倒れてな」
「…倒れた?」
聞くと、一月前ストレスで気を失って病院へ運ばれたらしい。恐らく俺とのあのことがあった頃。俺は思わず頭を抱えた。なんてこった。俺のくだらねェ嫉妬のせいで、彼女が倒れたなんて。それも、勘違いだったと?…俺ァなんて大バカヤローなんだ。
「じゃ、じゃあ…お前以外にそーゆう男が他にもいんのか?俺はその中の一人とかじゃ…」
「お前なァ。あいつがそういう類のケツの軽ィ女に見えんのか?」
「…いや、でも」
「俺ァ忠告したんだ、テメェなんかと関わると不幸になるってな。ま、それも無視してテメェに惚れてんじゃ、泣く資格もねェがな」
「…は?」
俺は土方の何気ない言葉に、耳を疑った。待て、こいつ今なんつった?…なまえが、俺に惚れてる?そんなバカな。彼女はそんな素振り、一度も見せなかったじゃねェか。ただ俺の言葉に流されるままに抱かれて、最後の最後まで俺を引き止めることすらしなかったじゃねェか。
「そんなわけねェだろ、デタラメ言ってんじゃねェ」
「デタラメなんかじゃねェよ。…こうなったのは自分のせいだと。お前を勝手に好きになった自分が悪ィ、お前は何も悪くねェって、そう言ってたよ。あいつは誰とでも寝るような女なんかじゃねェ。テメェに惚れてたんだ、だから許したんだろーが」
俺は呆然としたまま、視線を床から上げることができなかった。こいつァ気に食わねェヤローだが、こんなつまらねェ嘘をつくようなやつじゃねーってことくらい、わかっている。理解が追いつかない脳がどうにか俺の手足に指令を送ることに成功し、力なくその場を立ち上がる。
「…テメェらがどーなろうと知ったこっちゃねェ。だがな、あいつを泣かせんのはやめろ、いいな?」
土方の言葉を背に、答えることもできないままふらふらとおぼつかない足取りで真選組の屯所を後にした。
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