▼ Snap dragon / スナップドラゴン (金魚草) : おせっかい 1/3 side新八
銀さんがなまえさんに振られて(?)から早一月が経過した。あの日以来銀さんは、万事屋にいてもボケることも少なく、何やらぼんやりしている時間が多くなった気がする。現に先ほどからソファに寝転がりジャンプを読んでいる素振りをしているが、全くと言っていいほどページを捲っていない。
「銀さん、チョコレートでも食べますか?」
「んー、いや、いいや」
「じゃあ私がもらうアル!本当にいらないアルか?」
「おー、食え食え」
「「……」」
神楽ちゃんと僕は信じられないという目で銀さんを見つめるが、本人は気にしている様子もない。体調が悪いわけでもないだろうに、甘いものを断るなんて今まで一度でもそんなことがあっただろうか。神楽ちゃんによると、夜お酒を飲みに行くこともめっきりなくなって、ずっと部屋に篭りきりとのこと。あれからなまえさんの話は暗黙の了解でタブーになっているが、やはりあの銀さんでも何だかんだで参っているのかもしれない。
「銀ちゃん最近変アル」
「やっぱり神楽ちゃんもそう思う?」
「なまえに振られてから、おかしくなっちゃったアル」
銀さんを万事屋に残し、定春の散歩にきた僕と神楽ちゃんははぁ、とため息をついた。確かにあんな銀さんを見るのは、初めての事かもしれない。流石の僕たちもここ最近の銀さんの様子に心配になってきていた。
「食欲はあるし、ちゃんと仕事にも行くけど…何ていうか」
「元気がないアル」
「…そうだよね」
どうせ銀さんに直接聞いたところで「ガキには関係ねェよ」と一蹴されてしまうのが関の山だ。少し考えた僕は、神楽ちゃんと定春に先に万事屋に帰るよう促して、そのまま1階のお登勢さんのところに寄った。悩み事は人生の先輩に相談するのが一番だからね。
「お登勢さん、今大丈夫ですか?」
「新八じゃないか。どうしたんだい、今日は一人なのかい?」
「…あ、はい。その、ちょっと相談したいことがあって」
「新八もかい?…ったく、どいつもこいつも困ったもんだねぇ」
「えっ?」
プハッとタバコの煙を吐いたお登勢さんは、困ったような顔で僕に笑いかけた。運良くキャサリンさんもたまさんも出払っているようで、このスナックお登勢にはお登勢さんただ一人。安心して僕はカウンターに腰を下ろした。
「あの、お登勢さん。どいつもこいつも…って、まさか銀さんですか?」
「あぁ、そうだよ。柄にもなく浮かれちまって。見てるこっちが恥ずかしくなるよ」
「…あの、お登勢さん。それが…」
僕はあれから銀さんの恋がうまくいかなかったこと、そしてこのひと月すこぶる元気がないことを掻い摘んで話した。お登勢さんは時々相槌を打ちながら、怪訝そうな表情を浮かべていた。
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