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「銀さん、おめでとうございます!」
「銀ちゃんがとうとう婿に行けるアル!!」
パンパンとクラッカーを鳴らし、起きてきた俺を迎える新八と神楽。寝起きで頭の回らない俺は、ぼやっと机に並べられた、いつもより豪勢な昼ご飯を一瞥してソファに腰を下ろした。確か、昨夜神楽がそんなこと言ってたよーな。
「…いや、うん。ありがたいんだけど、何でうまくいった前提なの?」
「え、だってこの前いい感じって言ってたじゃないですか」
「毎晩なまえのとこ行く時は嬉しそうな顔してたネ」
「ふーん」
徐に骨つきのチキンに手を伸ばした俺は、一口かぶりつく。骨つきチキンに、サンドイッチ。ポテトに炭酸ジュース。朝から随分重たいものばっかりだ。いや、正確にはもう昼なんだけど。金欠の万事屋にこんな食料があるとは思えない。わざわざババアかお妙にでももらってきたんだろう。何も言わない俺に、新八は心配そうな顔を浮かべて、すぐに青い顔に変わった。
「…まさか、銀さん…」
「そのまさかだよ。ったく生傷に塩塗りたくりやがって、とんでもねーガキ共だなァ」
「ダメだったアルか…?」
「そーなの、ダメだったの。だから今日は失恋パーティなの」
俺が笑いかけると先ほどの嬉しそうな顔が一転、静かに二人は向かいのソファに座り、俯いていた。新八と神楽の気持ちを考えると胸が押しつぶされそうになる。食べ終えたチキンの骨を空いた皿に投げて、俺は髪を掻き毟った。
「…せっかく用意してくれたのに、しみったれたパーティになっちまって悪かったな」
「それは、いいんです。…なんか、早とちりしちゃったみたいで、…すみません」
「銀ちゃん、やっと幸せになれると思ってたネ…残念アル」
ふんと笑って、またご馳走に手を伸ばした。普段だったら誰先に手を伸ばす神楽の手は、自身の膝の上に乗せられたままだ。「いいの?食っちまうけど」と発破をかけると、落ち込んだ表情はどこへやら、次々に料理に手を伸ばすもんだから、安心して笑みがこぼれた。
「それにしても、銀さん意外と落ち込んでないですね」
「お前らの前だから強がってんのォ。本当はズタボロのボロ雑巾なのォ」
「何で振られちゃったアルか?」
「いや、そもそも振られてねーし」
俺の言葉に、えっ?と言いたげに二人がこちらを向いた。
「告白すら、してねーもん」
「ハァ?!何で告白しなかったアルか!?」
「結局、言わなかったんですか?」
ずいずいと俺に詰め寄る二人に思わず眉を顰めて顔を引いた。なんかもう、ただでさえ傷心の俺の心を踏みつけるかのような純粋な二人の瞳にいたたまれなくなった俺は、その問いかけから逃げるように寝室に向かい、身支度を済ませて早々に万事屋を後にした。後ろからブーブーと文句を言う二人に、俺は心の中で謝ることしかできなかった。
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