▼ Anthurium / アンスリウム : 恋に悶える心 1/2
俺はいつからこんなにも強欲な人間になってしまったんだろう。
例え身体しか繋がっていない関係だったとしても。
心を通わすことの出来ない関係だったとしても。
「好きだ」なんてそんな一言すら伝えられない関係だったとしても。
傍にいられるなら、それだけでよかったのに。
何故こんなにも、彼女の心を求めてしまうんだろう。
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「銀ちゃん、お腹すいたアル」
「豆パン食っとけー」
「銀ちゃぁん、いつもと違うの食べたいアル」
「そこにある豆パン食っとけー」
「…何でうちには豆パンしかないんですかね」
外は春の陽気に包まれた、心地の良い季節。
昼時にも関わらず、金欠な俺ら万事屋はまともな食事にありつけないでいる。それぞれソファで天井を仰ぐ俺たちは、空腹の限界を感じていた。
「俺だって甘いもの食いてーよォ」
「銀さん、万事屋の全財産っていくらなんですか?」
「あー?ちょっと待ってろ…」
新八は珍しくげっそりとした顔を俺に向けた。ゴソゴソとポッケを漁る俺を、神楽はワクワクとした顔で覗き込む。小銭入れを開いて机にぶち撒けると、新八がいち、にぃ、と数え始めた。
「ご、500円!!」
「キャッホゥ!」
「何食いてーんだ、ガキども」
目を輝かせながら肉まん、肉まん、と口ずさむ神楽はシカトして、新八に顔を向けると、少し悩んでからピッと人差し指を立てた。
「腹持ちの良さそうな、団子とかどうですか?」
「はい採用。つーわけで買ってきて」
「団子は一本80円だから、6本買えるネ!一人3本アル!」
「それ誰か食えてねーだろーがァァァ!!」
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結局ジャン負けした俺は、財布片手に団子屋に向かった。みたらし団子とあん団子をそれぞれ三本ずつ買い、来た道を歩き出した。
昼時は過ぎちまったが、腹を満たせりゃあいつらも静かになんだろ、と考えながら歩いていると、一瞬鼻を掠めた甘い匂いに思わず立ち止まった。
一瞬チラついたガキ共の顔。漂うその香りに掻き消されて、俺の足は万事屋とは違う道へと、向かっていった。
…やっぱり、麻薬のような女だ。依存性がまるで尋常じゃねェ。
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