▼ Salvia / サルビア : 燃える思い 1/2
もう後戻りはできない。
脆くも崩れた俺たちの”普通"。
きっとあの優しい笑顔を独り占めすることも、この気持ちを打ち明けることも、もう俺にはできない。
…そして、きっと彼女もそれを望んではいないはずだから。
_
「ぎ、銀さん。昨日どうだったんですか?」
神楽がいないことをいい事に、新八はおずおずと下手に出ながら下世話な質問をしてきた。ジャンプを読むふりをして、その声が届かないふりをした。
「銀さん、やっぱりダメだったんですね」
「やっぱりって何だ、やっぱりって!別にダメじゃねェよ!!むしろいい感じだよ!」
はぁ、とため息をつく新八に、思わず声を上げてしまった。別に嘘はついていない。ダメだったわけではないのだから。無論、うまくいったわけでもなかったが。…いや人によっちゃうまくいったとも、言うのかもしれない。
「えー?!!うまく行っちゃったんですか!?それはそれで喜べないというか…」
「何なんだよお前は!どっちだよ!」
「銀さんに幸せになってほしいという気持ちとなまえさんに幸せになってほしいという気持ちが入り乱れちゃって…」
「失礼なヤローだなァ」
…俺といると、不幸になるってか?あながち間違ってはいないその言葉に、反論できずにまたジャンプに目線を落とす。それでも頭に浮かぶ昨夜の彼女の火照った顔のせいで、全然話が入ってこねェ。
綺麗な花の、花弁を散らし乱れる姿。思い出すだけでまた熱い気持ちが湧き上がる。
『万事屋さん、私を抱いてください』
何故彼女があんなことを口走ったのか、何度考えても答えがわからない。ただアルコールに当てられただけだとしたら、次にもし彼女の元へ行ったら拒絶されてしまうのだろうか。それとも、笑って俺を迎えてくれるのだろうか。どう転んでもいい結果になりそうもなくて、俺は項垂れてため息をつく。
「…どうしたんですか?」
心配そうに声をかける新八に、俺はぶっきら棒に「何でもねェ」と呟いた。こんなメガネくん相手に恋の相談をしたって、何の解決にも繋がらない。斯くなる上は、年の功だ。
prev / next
bookmark