▼ Curcuma / クルクマ : あなたの姿に酔いしれる 1/2
「んじゃ、お疲れ様っつーことで」
「ありがとうございます」
「乾杯」と二人で声を合わせてビールジョッキをカチリと合わせる。グイッと半分ほど飲み干すと、彼女も同じようにビールを飲み込んだ。
…美人な女がビール飲む姿って、なんかそそるなァ。
「…万事屋さんて、結構お酒飲むんですか?」
「んー、まァな。あんま強かねェけど」
そう言って枝豆を摘むと、つられたようになまえも枝豆に手を伸ばした。騒がしい店内に落ち着かないのか、そわそわと辺りを見回す彼女が可笑しくて、暫くその様子を見ていた。
この大衆居酒屋におおよそ似つかわしくない、上品な佇まいの女を、物珍しそうに他の客がこちらをチラチラと気にしている。そんな様子に気付いていないなまえは、ビールをぐいっと飲み干した。
「結構イケる口なんだな、……ん?」
「ひっく…」
飲み干したビールジョッキを机に置いた彼女の顔は、まるで茹でダコのような赤さに染まっている。ついでに聞こえたしゃっくりの声に、俺は思わず目を丸くした。
「万事屋ひゃん、」
「えェェェェッ!!?」
「聞いてくらさいよ」
数分前の淑やかな彼女は何処へやら。ビール一杯で、完全に出来上がってる酔っ払い女に俺は少なからず驚いてしまった。
…オイオイ、酒弱いってレベルじゃねェぞ、これ。
「私、本当に男運なくってぇ…」
「え、そうなの?」
「散々な目にあってきたんれすよ」
呂律の回らない言葉で管を巻くなまえが可愛らしい。何だか彼女の特別な部分を見れた気がして、胸が高まってしまった。
「あんま元彼の話とかはちょっと、…結構気にするタイプなんですけど」
後頭部を掻き毟る俺に気にも留めずに、過去の男の話をしだすなまえに、俺は仕方なく相槌を打つしかなかった。
「それなのにぃ、みんな私のこと捨てるんれすよ」
「そーなの?馬鹿な男もいたもんだ」
…こりゃまた、意外だ。見かけによらず、小悪魔な子なのかと思いきや、男の方から去っていくなんて。俺が見ている限りでは、何か彼女に欠点があるようには見えないが。
店員に追加の酒を頼むと、すかさず「私もお願いしますぅ」と絡みだす彼女に苦笑いをした。
「私、普通に幸せになりたいんれすぅ」
「…普通、ねぇ?」
「普通に恋をして、好き合って、幸せになりたいんれす」
俺はこの彼女の言葉に、少しばかり期待してしまった。いくら酔っ払ってるとはいえ、これが彼女の本心ならば。…もしかすると、いや、もしかしなくても、イケるんじゃ!?
「あのさァ、俺みたいなのとか…」
「私の何がダメなのかなぁ…」
俺の言葉を遮って拗ねた子供のように口を尖らせた彼女は、困ったように小さく笑うとそのまま机に突っ伏した。そんな彼女に、俺は叫ばずにはいられなくなった。
「寝るんかィィィ!!!!!」
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