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目的の花屋、フラワーショップ鈴に到着した俺は、外から店内を覗いた。沢山の花に囲まれた、一際綺麗に咲く一輪の花についつい見とれちまう。俺に気づく気配のない彼女に、痺れ切らして声をかけた。
「相変わらず、暇そうだな」
「万事屋さん」
驚いたように振り返る彼女は、俺を見るなり優しく微笑んだ。春が訪れたような優しい笑顔に、俺の心も同時に温かくなった気がした。
「随分色気のねェ呼び方だなァ」
この町の奴らは皆、合わせたように銀さん、銀さんと俺を呼ぶ。名前で呼ばねェのは真選組のやつらくれェか。っつってもまだ二回やそこらしか顔を合わせてねーし、そもそも俺は今日落ち込みに来たわけじゃねェ。
何か問いたげに俺を見つめるなまえの顔を覗き込んだ。
「今日、何時まで?」
「私ですか?…あと一時間くらいで上がりです。お客さんが入らなければ」
「んじゃ、飲みに行かねー?」
ニッと笑ってみせると同時に、ポカンと口を開いたなまえ。その顔が何とも間抜けで思わずにやけてしまいそうな顔を隠して、その返事を待った。
「私でよければ」
照れたように俯いたなまえに、俺はとうとうにやけてしまった。急いで背を向け、17時に迎えにいくと伝えてなまえに手を振り、スキップしかけた足をどうにか抑えて、軽やかな足取りでその場を後にした。
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「つーわけで、出かけてくるから」
万事屋に帰るなり風呂を済ませた俺は、新八と神楽に向かってそう言い放った。興味なさそうな神楽に代わって、新八は驚いた顔で俺に詰め寄った。
「え!?まさか、銀さん!」
「まぁまぁ、ぱっつぁん、落ち着けって」
「いやあんたが一番落ち着けよ!靴、左右逆ですよ!!」
「銀ちゃんデートアルか?」
「悪りぃな神楽、今日は遅くなっから、いい子にしとけよ」
わかったアルー、と気の抜けた神楽の声と、気をつけて下さいね、と何故か緊張気味の新八の声を背に、そして払う予定だった家賃を手に、俺は花屋に向かった。
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