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「傷心、ね」
仕事を終えた帰り道。私は思わず独り言を溢した。
銀時が家に来なくなって、ひと月。毎日とまでは行かずとも、結構な頻度で私の家に足を運んでいた彼が来なくなってからというもの、私は家での時間をどう過ごしていたか、思い出せずにいた。
人間とは不思議なものだ。
最初から一人でいる分には、きっと何も問題なく生きていける。それなのに、一度人の温もりや優しさを手に入れてしまうと、それを無くして生きていくことが出来なくなってしまうのだから。
それでも、私は生きるしかないのだ。銀時が離れていってしまった以上、私はどうすることもできない。本当は伝えられたら良かった。貴方が好きだと、なりふり構わずに、伝えれば良かった。そうすれば、きっと叶わなかったとしても、前を向いて歩けたはずなのに。
「もう、何してんだろう、私ってば」
少し気が緩むと、すぐに共に涙腺も緩んできてしまう。いつから私はこんなに脆くなってしまったんだろう。今まではそんなことなかった。今まで迎えた終末も、涙を流すのは長くても三日くらいだった。十四郎に、立ち直りが早いと笑われたほどに。
それなのに、今回は、どうしてこんなにも、気持ちが晴れてくれないんだろう。どうして、私は彼じゃなければダメなんだろう。
あと少しで家に着く。懲りずに瞳に浮かぶ涙が溢れないように、眉を顰めたところで、後ろから何やら声が聞こえた。気にせず歩いていたが、段々と近づくその声が、自身の名前を呼んでいることに気づいて、私は思わず足を止め振り返った。
「あ、あなたは…!」
聞きなれない声で私の名を呼ぶ人物を認識した私は、思わず声を上げてしまっていた。
何故、どうして?そんな言葉が頭を埋め尽くした。
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