beniiro tear | ナノ


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点滴を終えて、家まで送ってくれた十四郎は「何かあったら連絡しろよ」と一言残し、すっかり暗くなった街へ消えていった。
家に着くなり、すぐに鈴さんに電話をかけると、心配こそすれ、私を咎めることはなった。鈴さんには迷惑と心配をかけてしまって、本当に申し訳ない。2.3日休みをもらうことになった私は、ぼんやりとちゃぶ台に肘をついた。

あれから何度も銀時のことを思い出しては、心が悲鳴をあげた。もう考えない方がいいなんてこと、バカな私でも理解している。それなのに、なぜこんなにも彼のことを忘れられないんだろう。

私は、彼のことを、何も知らない。
年も、連絡先すらも知らない。唯一知ったことといえば、甘いものが好きなことくらいで。そんな彼の気持ちなんて、知る由もないのに。
それなのに、何故私はこんなに彼に執着してしまうんだろうか。
ただの独り善がりの恋心をうまく消化できないのは、年のせいだろうか。
もし、若い少女のように、感情のままに気持ちを伝えられていたら、こんなことにはならなかったのだろうか。


『抱いてください』

何故私はあの時、あんなことを言ってしまったんだろう。今思い返してみれば、ただ彼ともう少し一緒にいたかった、ただそれだけの感情だったはずなのに。世間に揉まれ、様々な人と関わっていくうちに、狡さを手に入れた引き換えに、私は素直な気持ちをどこかに置いてきてしまったのかもしれない。

身体だけの関係でもいい、そばに居られるなら。
そんなのは、最初だけだった。彼と夜を過ごすたびに、私はどんどん強欲になっていった。
私だけを見て欲しい。
私だけに触れて欲しい。
私だけの彼でいて欲しい。
…私だけを愛して欲しい。

私が勝手に順序を違えたくせに、心でずっと、彼を求めていた。何てバカな女なんだろう。
きっと彼はそんな私の気持ちに気づいて、嫌気がさしてしまったのかもしれない。彼はきっと、心なんていらなかったのだろう。煩わしい事になる前に、離れていったんだろう。

またじんわりと、涙が滲む。
…互いに求めることが違っただけ。遅かれ早かれ、きっとこうなることはわかっていた。それなら、まだ傷が浅いうちに終わることができて、良かったじゃない。たかが、数ヶ月の関係。きっと、すぐに忘れるはず。彼を焦がれて泣くのも、すぐに。…すぐに。


「全然、傷、浅くないなぁ…」


そんな独り言が、宙を舞ってすぐに消えた。





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