▼ 2/3
だんだんとはっきりした視界に映ったその人影。
心配そうな、どこか怒っているような、何とも形容しがたい表情で、私を見つめる黒髪の彼を認識するなり、私の瞳に涙が滲んだ。
「…なわけ、ないか…」
そんな私の言葉に、十四郎は大きくため息をついた。私の言葉に驚く様子もないということは、全部お見通しだったということなのだろう。
「過度のストレスじゃねーかだとよ」
「…そう」
「だから言っただろーが、不幸になるぞって」
「…ごめんなさい」
ったく、と呆れたように私を見下ろす十四郎の瞳は、とても優しくて。思わず瞳から涙がこぼれた。何で失恋如きで私はこんなに人に迷惑をかけてしまっているんだろう。今までこんなことなかったのに。こんなに心から人を好きになったことなんて、なかったのに。流れ落ちる雫を何度拭っても、どうやら収まってはくれないようだった。
私は嗚咽を抑えながら、ポツリポツリと銀時との出会いから、今に至るまでの出来事を簡潔に話した。
「…あの天パヤロー、絶対ェ殺す」
「ちがっ、…万事屋さんは悪くないの」
「あァ?」
額に青筋を立てた十四郎を思わず宥める。ギロリと私を睨んで、さらに眉を顰めて大きくため息を吐いた。
「…そんなに好きかよ、あのバカのこと」
「…っ」
「んっとに、ダメ男ホイホイだな、テメェは」
十四郎らしくないその表現に、思わずクスッと笑った私を「笑い事じゃねェ」と眉を顰めて小突いた。
「…十四郎にはこんなに素でいられるのにな」
「そりゃ、俺とお前ェは、…家族みてーなもんだからな」
「何で、彼には素直になれないんだろう」
少し照れ臭そうに目線を逸らした十四郎は、私の言葉に困ったように、ボリボリと頭を掻き毟る。ようやく涙が止まった私は、上半身を起こして十四郎に向き直った。
「…心配かけてごめんなさい」
「俺より鈴さんに言ってやれ。あんまり年寄りを心配させんじゃねェよ、ポックリ逝っちまうぞ」
あれから鈴さんは、大慌てで救急車を呼んでくれたものの、店を空けることが出来ずに、十四郎に連絡を入れたそうだ。いつもの隊服ではなく着流しのところを見ると、わざわざ休みだったというのに、ここへ駆けつけてくれたんだろう。何から何まで二人には頭が上がらない。
また小さく「…ごめんなさい」と呟くと、十四郎は呆れたように笑った。
prev / next
bookmark