▼ 2/2
「あの、万事屋さん」
情事を終えて、またも布団に寝転がる銀時を尻目に、私は冷蔵庫へ駆け寄った。そんな私を不思議そうに見つめる銀時に、長細い箱を手渡した。
「この間のお礼です。よかったら神楽ちゃんや新八君と食べてください」
「うぉ!マジ?!いいの?」
その箱を開けた銀時は、ぱぁっと嬉しそうな顔を私に向けてきた。それは町のはずれにある洋菓子屋のシュークリーム。まさか銀時が甘いものが好きなんて知らなかった私は、こんなもの男の人に渡すなんて如何なものかと不安だったが、予想以上の喜びように安堵した。
「甘いものが好きなんて知らずに買ったんですけど。…よかった」
「ちょーど腹減ってたの。食っていい?」
「そうなんですか?じゃあ一緒にお茶でも出しますね」
慌てて急須に玉露を煎れて机に二人分の湯呑みを置いた。頬杖をついた銀時は優しい表情で、そんな私の動作を見つめている。
…何だろう、この感じ。今までは事が済めばすぐに帰って行った銀時が、私の家でお茶を飲みながらシュークリームを食べているなんて。
美味しそうにシュークリームを頬張る銀時に、思わず頬が緩んでしまう。
「…なァ、前に居酒屋で話したこと、覚えてる?」
「…というと?」
「元カレの話とか、散々してたんだけど。覚えてねェ?」
…元カレの話?!どうしよう、酔っ払った勢いでそんなことを口走っていたなんて。全く覚えていない。私は苦笑いをして首を振った。
「ん、ならいーや」
「…ごめんなさい。あの時、結構酔っ払ってたみたいで」
「確かにあん時、ふにゃふにゃだったもんなァ」
可笑しそうに笑う銀時が、愛しくて。それなのに、私の心はギシギシと音を立てる。そんな私をよそに、シュークリームをペロッと食べ終えた銀時は、「ごちそーさん」と立ち上がって、メットを手に持った。
「…万事屋さん、」
「んー?」
「また、甘い物、用意しておくんで…よかったらまたお茶でもしてって下さい」
銀時の着流しを摘んで、私の絞り出した精一杯の言葉に、銀時は驚いたような顔をした。気まずくなって「…気が向いたら」と付け足すと、銀時は何も言わずに私の頭に手を置いて、 ふっと微笑んで夜の闇へと消えていった。
少しでも長くこの関係が続けられるのなら、どんな傷を負ったって、どれだけ涙を流したって、きっと耐えられる。そう、思っていた。
prev / next
bookmark