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真撰組の三人と別れを告げ、急いで花屋に戻って鈴さんを捕まえた。
「鈴さん、心配かけてごめんなさい」
「あら、土方さんたらお喋りねぇ。なまえ、本当に最近どうしたんだい?体調でも悪いのかい?」
「本当に何でもないの。季節の変わり目で少し寝つきが悪くって」
それならいいんだけど、と鈴さんは安心したように笑って、配達へ行ってしまった。
十四郎ならまだしも、真撰組の二人や鈴さんにまで心配をかけて、私は何をしているんだろう。気を引き締めなければ。…そう意気込んだ矢先、視線を感じて振り返った私の目に飛び込んできた光景に、思わず後ずさりをしてしまった。
「よ、万事屋さんっ!」
「何ブツブツ喋ってんの?ちょっと怖かったんですけど」
いつだかと同じような体勢で、扉に体をもたげて、首を傾げる銀時に、私は固まったまま動けない。
「万事屋さん、どうして…」
「いや、近くで仕事があったからよ、久しぶりに働いてる姿でも覗いてやろーと思ってな」
ニッと笑う銀時に、私はどう反応していいか困ってしまった。あれだけの夜を共に過ごしているくせに、昼に会うのはあの飲み屋に誘われた日以来。いつもアルコールの匂いを纏っている彼は、今日はどう見ても素面の顔で、私を見つめている。
「…迷惑だった?」
苦笑いをする銀時に、私は大きく首を振る。そんな私の頭にポンと大きな手を置いて、何かを差し出してきた。それを受け取ると、銀時は柔らかく笑った。
「団子好きか?」
「はい、…好きです」
自分から聞いてきたくせに、なぜかおどろいたように目を見開いた銀時に、私は首を傾げる。頭に乗せられた手が、パッと離れてしまい、私の心が切なげに揺れた。
「じゃ。また、な」
「はい、気をつけて」
その「また」の意味を十分に理解していた私は、もう見えなくなった銀時の後ろ姿から逃げるように裏口へ駆け込んだ。
必死に噛み殺した気持ちは、涙へと変わり、頬を伝い流れ落ちた。
どうせ身体だけの関係なら、優しくしないでほしい。
どうせ気持ちがないのなら、微笑まないでほしい。
…バカだから、期待してしまうじゃないか。
割り切っていたはずなのに。今の関係で幸せだったはずなのに。
「何で、こんなに辛いんだろう…」
何でこんなに、好きになってしまったんだろう。
その答えが出るわけもなく、私は一人涙を流すしかできなかった。
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