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「なに、お前、酒弱かったの」
居酒屋からの帰り道、二人並んで夜道を歩く。顔を真っ赤にした銀時のトロンとした瞳が、私の顔を覗き込む。自分だって対して強くないくせに。文句を言いたいのに、何だか頭の中がふわふわとして、言葉にできない。
「…ん、まぁ」
「まぁ、ってレベルじゃねェだろ、ふにゃふにゃじゃねェか」
そう言って、私の頭をツンと小突く銀時は、呆れたようにだらしなく笑った。何だろう、この気持ち。心がじんわりと暖かくなるような、氷が溶けていくような、何とも言い難いこの気持ち。ぼんやりとその笑顔を見つめると、また銀時は目を細める。
「万事屋さんは、彼女とかいるんですか」
「いたら女と二人で酒なんか飲まねーだろ」
「…意外と真面目なんですね」
「メンドクセェの嫌いだからな。ってか意外ってなんだ、意外って」
眉を顰めて私を咎める銀時の、瞳を見つめていると、何だか吸い込まれるような感覚に陥る。どうにか意識を保とうと、無理やり微笑んで見せた。
「ったく、次は居酒屋じゃなくてまたファミレスにしといたほーがよさそーだな、これじゃ」
「…すみません、お酒なんて飲むの久しぶりで」
ふわふわとした頭でどうにか言葉を紡ぐ。外の空気が火照った頬を掠めて気持ちがいい。時折自身の指に銀時の長い指が掠めるたびに、そこから熱を帯びたように全身が熱くなる。
「…万事屋さん、お家もうここなんで、大丈夫です」
「あ、そう?悪ィな、無理に飲ませちまって」
「いえ」
自身の住む長屋に着いた私は銀時に向き直り、ペコリと頭を下げた。笑って手を上げ、私に背を向ける銀時。その大きな背中を見つめていた私の脳内に何度となく信号が鳴り響く。このままでは、いけない。早く目を逸らさなければ。そうでなくては、私は、…私は。
「っ…万事屋さんっ!」
気が付けば私は声を上げて、彼を呼び止めていた。突然の出来事に銀時は驚いたように振り向いて、また私の元へ歩み寄る。
「どーした?…忘れもん?」
「万事屋さん、この前、仰ってましたよね」
「…この前?」
信号が鳴り響く脳内を振りほどくように、銀時に駆け寄って、その胸に飛び込んだ。驚いたように見開く銀時の瞳を、じっと見上げて眉を顰めた。吸い込まれそうなほどの深い瞳に、夜空とのコントラストがいやになるくらい美しい、その銀色の髪。…私は、おかしくなったのだろうか。
「報酬は、払います。…御依頼されて頂けませんか」
「…依頼?」
「万事屋さん、…私を抱いてください」
アルコールにあてられた私の思考は、まともに機能していなかったのかもしれない。それとも、私は彼に酔っていたのかもしれない。
私の本能は、それほどまでに彼を求めていた。
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