beniiro tear | ナノ


▼ 2/2 最終話



「ね、ちょっとお登勢さんのところに寄っていかない?」

「ん、まぁいーけど」


普段は私の家まで送ってくれて、そのまま私の家に泊まるか、その場で別れるかをしていたのだが、珍しくそんな提案をする私に、銀時は何も疑うことなく頷いた。万事屋もといスナックお登勢へと向かいながら、私は心ここに在らずだった。これから待ち構えるあるイベントが、上手くいくか。そして、喜んでくれるだろうか。そんなことが心配で、何も知らない銀時が話しかけてくるのを空返事で答えていた。スナックお登勢に到着した私は、銀時が戸を引くと同時に、大きく深呼吸をした。そして戸を開き、銀時が暖簾をくぐった瞬間、パンパン!と大きなクラッカーの音が待っていた。


「銀さん、なまえさん!おめでとうございます!」

「……は?」

「銀ちゃんも、とうとう…」

「……え?何?俺、店間違えてる?」


暖簾の先にあった店内は、まるでクリスマスパーティかのように飾り付けられていて、いつもより随分と派手な雰囲気になっている。そこのは新八くん、神楽ちゃん、お登勢さんにたまさん、キャサリンさん。そして真選組の三人が私たちを出迎えてくれた。驚いた顔でその場から動かない銀時に、私は中へ入るよう促した。


「…え、何、待って待って、マジで何?」

「ったく察しの悪ィヤローだぜ」

「万事屋、まさかお前に先越されるとはなァ」

「姐さん、何度も言うようですけど、本当に旦那でいいんですかィ」


銀時は声をかけてくる真選組の三人と、私を見比べて、やっぱり意味がわからないというように首を傾げた。


「なまえちゃん?これ、どーいうこと??俺、誕生日まだだよ?あと二週間くらい先なんだけど?」

「銀時さん、今日は私、銀時さんに報告しなければならないことがあるの」

「…報告?」


私の言葉に、十四郎以外のみんなは待ち遠しそうに笑顔を向けてきた。放心状態の銀時の前に立って、その手をおもむろに掴んで、自身のお腹へと引き寄せる。銀時はその行動でようやく理解したのか、怪訝そうにしていた表情が一変、目を見開いてわなわなと口を震わせた。


「…え、ウソ?マジで?…ドッキリとかじゃない?」

「ドッキリなんかじゃないわ、銀時さん。…あなた、パパになるの」

「……」

「…銀時さん?」

「…っぃよっしゃァァァ!!」


銀時は大きな声を上げるとガバッと勢いよく私を抱きしめた。銀時を驚かせたくて、妊娠したことをずっと黙っていた。神楽ちゃんとお登勢に相談したところ、サプライズパーティをしようということになり、1.2週間ほど前から企画していたのだ。成功するといいなとは思っていたがまさかここまで喜んでくれるとは、正直思わなかった。


「ぅわ!銀ちゃん泣いてるアル!!プッ!!」

「な、泣いてねェよ!!目にゴミが、入っただけで…」

「何泣イテンダヨ!キモチワリーナ!!」

「…なァ、近藤さん、俺もう帰っていいか?」

「土方くーん!聞いた?俺パパになるんだって!聞いた?羨ましい?羨ましい?」

「全ッ然羨ましかねェよ!!あ、テメー今どさくさに紛れて鼻水吹いたろ!」

「神楽、新八!弟か妹ができるぞ!」

「わーい!妹がいいアル!!」

「僕は弟がいいです!」

「ババア!死ぬ前に孫が拝めてよかったな!!」

「あんたに似ないといいけどねぇ」


みんなにそんなことを触れ回ってまた私の元へ戻ってきた銀時は、真っ赤になった目で私を見据えた。私もそんな銀時を見ていたら、視界がどんどん歪んできてしまった。今度は銀時が私の手をとって、真剣な顔を向けた。


「ちょっと順番間違ってっけど、ま、いっか…。なまえちゃん、」

「はい…」

「…絶対幸せにするから、俺と結婚して下さい!」


至極真面目な顔で公開プロポーズをする銀時に、みんなの前だというのに私はポロポロと涙が溢れて止まらなくなってしまった。周りを見渡すと、みんなとっても優しい表情で私たちを見守ってくれている。それがまた、嬉しくて。今の私たちがあるのは、ここにいるみんなのおかげだとわかっているから余計に、涙腺が決壊したように涙が溢れ出す。


「……はい」


涙を拭い、不安げな表情を向けていた銀時に笑いかけると、銀時は安心したように微笑んで、また私を抱きしめた。

彼と出会い、そして彼と過ごした日々。私の心は何度壊れて、何度涙を流したかわからない。やめてしまおうと思ったこともあった。出会わなければよかったなんて、そんなことを思ったりもした。それでも、その過程が今この幸せを掴むためのものだったとしたなら。あの涙に濡れた日々は何も無駄なんかじゃなかった。周りの人たちに支えられて、ここまでこれた。そして、きっとそれは、相手が、彼だったから。きっと彼じゃなければ、あの辛い日々を耐えることはできなかった。あんなにも思い続けることはできなかった。全ては銀時だったから、私は全てをかけて彼を愛することができた。

彼に出会えてよかった。


「…銀時さん、愛しています」






-end-





→あとがき



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