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青い顔をした二人を引き連れて到着したのは、大江戸遊園地名物・心霊病棟の館。お化け役は全部人間がやっていると有名で、ホラー好きな人がこぞって足を運ぶ有名なお化け屋敷。見た目からして、禍々しいオーラを放つ病院を模したその館。行こうと言い出したものの、いざ目の前にすると、足が竦んでしまう。
「おい、無理しなくていいんだぞ?銀さんも、既にリタイア希望だよ?」
「ううん、楽しみにしてたから、どうせなら入る!」
「土方さん、顔が幽霊顔負けの白さでさァ。ビビってるんですかィ」
「…んなワケねェだろ!テメェ俺を誰だと思ってんだ、こんなの朝飯前、だっつーの…」
総悟くんは至って涼しい顔で、土方さんを煽る。確かに土方さんの顔も白いけど、銀ちゃんも負けず劣らず青い顔。私は気を取り直すと、銀ちゃんの手を引いた。
「二人一組だから、銀ちゃんと私ね!総悟くんと土方さんは、出口で待ってますねぇー」
二人に手を振り、館へ足を踏み入れた。
入り口の受付で、ゾンビのような見た目のお姉さんに止められ、お化けに手を出したらダメ、途中リタイア可、ゴール出来た人は記念撮影、なんて簡単な説明を受けると、スタートの地点に促された。
「…銀ちゃん?大丈夫?」
「…行くしかねェだろ」
なんて強がる銀ちゃんは、先ほどより強く私の手を握っていることに気付いていないのかな。思わず微笑んで見せたけど、返ってきた銀ちゃんの表情はガチガチだった。
いざ館に足を踏み入れると、鼻をつくアルコール臭。どこまで本気のお化け屋敷なんだろう。何だか怖くなってきた。初っ端から看護婦の格好をしたお化けに遭遇して、私たちはヒィッ!とハモらせた。
「お前も怖いんじゃん…」
「銀ちゃんこそ、ヒィ!って。女子じゃん…」
「…うっせェ」
竦む足を無理やり動かし、進んでいくと、病室のような部屋や手術室など、随分手の込んだ作りになっている。お化けが出るたび、ギャーギャー騒ぎながら漸く辿り着いたのは、霊安室と書かれた部屋の前。恐らくもうそろそろ出口だろう。一息ついた私たちの後ろから、叫び声と共に激しい足音が聞こえてきた。
「えっ、なに、?…なんかこっちくる?」
「オイオイ、マジかよ…お化けが追いかけてくるとか、そうゆーのはマジ勘弁…」
思わず銀ちゃんの着流しを掴み、恐る恐る音のする方へ目をやった。銀ちゃんも空いた手で、私の肩をギュっと抱きよせる。
「土方、死にやがれ!攘夷浪士に殺られた体で、死にやがれ!」
「総悟、テメェ、こっちくんじゃねェェェ!!」
「「……」」
私たちに追いついた足音の正体は、説明するまでもなく、バズーカを持った総悟くんに追いかけられる土方さん、その人たちだった。
「オイ、てめぇら何じゃれてんだこんなとこで。ビビらせんじゃねェ」
「……追いついちまいやしたか」
「こいつが、暗闇でどさくさ紛れに俺を殺ろーとしてやがんだよ!!」
「土方を死に追いやれる郭公のチャンスだったんで、つい」
「つい殺そーとすんじゃねェェェ!!!!」
「こんな所で喧嘩するのは、やめてください!もう。仕方ないから四人で進みましょ、ほら」
私がそう促すと、総悟くんも大人しくバズーカをしまってくれた。二人じゃ怖いけど、四人で回れば怖さも半減するよね、うんうん。恐る恐る霊安室に足を踏み入れた私たちは、多分みんな同じことを思った。
「…なんだ、何もねェじゃん」
銀ちゃんが代弁するように呟いた。私も、同じことを思ったもん。さっきまでの部屋はベッドがあったり、壊れた薬品棚があったり、病院のそれそのものだった。でもここは違う。部屋が真っ暗で、よく見えないこと以外、何の変哲もない一室。お化けどころか、ベッドも何もない、ただの部屋。僅かに御線香の匂いが鼻につく。
「一体なんなんだ、この部屋。霊安室じゃねェのか」
「入口にはそう書いてありやしたけど。何でもない部屋ですねィ」
真選組の二人も不思議そうに呟く。
「…ねぇ、あれ」よく見ると、中心に小さな灯りが灯っている。ロウソクのような形をしたライトの横に、御線香のようなものが置いてある。四人で恐る恐る近づく。何だか先ほどより、部屋の密度が濃くなった気がする。何ていうか、四人以外にも人がいるような、そんな気が。 私は握っていた銀ちゃんの手に思わず力を入れると、銀ちゃんもギュっと返してくれた。
ロウソクの目の前に立った私たち。そのロウソクに土方さんが手を伸ばした瞬間、目に飛び込んできた光景に、私は反射的に声を出してしまった。
密度が濃くなった気がする、人がいる気がする。…気のせいではなかった。部屋が暗くて全く気づかなかった。ロウソクに近づいたとき、暗闇に慣れて周りの景色が見えるようになった。その目に飛び込んできたのは、真っ黒なお化けたち。黒い服を着たお化けたちが、私たちを取り囲んでいた。
「いやあぁぁぁぁあ!!!!!」
私は握っていた手を引き、一心不乱に出口へと走り抜けた。…ごめんなさい、銀ちゃん。お化け屋敷入りたいなんて言って。真選組の二人もごめんなさい。全然無理でした。怖すぎました。半べそをかきながら、光の方へ走ると、ようやく出口にたどり着いた。
「ごめんね、銀ちゃ…」
銀ちゃんに素直に謝ろうと、振り返った私は思わず固まった。
「……」
「……あれ、…総悟、くん?」
あれ?あれれ?さっきまで掴んでたはずの銀ちゃんの手ではなく、何故か私は総悟くんの手を握っている。あれ?…銀ちゃんは?「姐さん、いつまで握ってるんでさァ」なんて苦笑いされて、やっと私はその手を離した。
「「ぎゃぁぁぁあ!!!」」
頭にハテナマークが浮かんだところで、私たちの後ろから男二人の叫び声がした。仲良く手を繋いだ銀ちゃんと土方さんが出口から飛び出してきた。明るくなって、お互いの手を握ってることに気付いた二人はまた「「ぎゃぁぁぁ!!!」」と叫んだ。
「テメ、何手ェ握ってんだよ気色悪ィ!!!!」
「コッチのセリフだよ!マヨクセェのが移っただろーが!なまえちゃーん消毒してェェェ」
「ごめ、間違えて、総悟くんの手握って出てきちゃったみたい…」
「あ?!?」
素直に謝ると、銀ちゃんは鋭い目つきに変わり、どちらかと言うと被害者の総悟くんを睨みつける。
「総一郎君?さっきから何で人の女にちょっかいかけてんのかな?んん?」
「旦那じゃ頼りなかったんじゃねェですかィ」
「んだとォォォ!?!?」
「銀ちゃん、ごめんって。驚きすぎて間違えちゃったみたいなの。あっ!ていうか無事ゴールできたから、記念撮影!!しよう!」
カメラを持ったゾンビのお姉さんがお疲れ様です、なんてプラカードを持って手を挙げている。早く早く〜とげっそりとした二人と、相変わらず涼しげな総悟くんに並ぶよう促す。
「はい、みなさーん行きますよー、ハイチーズ」
「……ってオイ!何でマヨラーとドエス王子も一緒なの!?」
カシャッ
出来上がった写真は、迷わず購入した。ちゃっかりピースをしてしゃがむ土方さんと総悟くん。その後ろに私と銀ちゃん。…銀ちゃん、ツッコミしてたせいでめちゃめちゃ変な顔になってるよ。
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