Dolce | ナノ


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「どーせヅラんとこだろーと思ったよ」

「…銀時、」

「ま、いーから乗れよ」


俯く私にヘルメットを渡す銀時は、少しも怒ってはいない。それどころか、とっても優しい表情で私を見つめている。渡されたヘルメットをかぶり、バイクの後ろに腰を下ろした。バイクを走らせている間、私は自分の心の狭さに嫌気がさしていた。このヘルメットだって、わざわざ私のために買ってくれたもの。「新八にゃわりーけど、もうお前しか乗せるつもりねェから」なんて言ってくれていたのに。毎日私の髪の毛をドライヤーで乾かしてくれるたび「綺麗な髪だな」なんて言ってくれていたのに。毎朝作る私のご飯をとっても嬉しそうに食べてくれていたのに。寝る前はお互いが寝落ちするまでずっと話をしてくれていたのに。…何で、私は銀時の気持ちを疑ってしまったのだろう。


「……ごめんなさい」

「…」

「銀時、ごめんなさい。私、…っ」

「聞こえねーから、降りてから話そーぜ」


その言葉に私はぎゅっと銀時の背中にしがみついた。早く伝えたい。この溢れる想いの全てを、一から十まで全部聞いてほしい。私は、銀時が、…。



「…って、ここ…」

「…休憩しながら話そーぜ、ファミレスで話すよーなことじゃねーだろ」


なんて言われながらたどり着いた、ネオンの看板が何とも怪しげな建物。ファミレスで話すような話じゃないことは確かだけど、だからってこんなところで話すようなことでもないんじゃないですか、銀時さん。そうこう脳内でパニックを起こしているうちに、手を引かれるがままその一室へと足を踏み入れた。室内はピンク色の壁に包まれていて、ツヤツヤとしたサテンの生地のベッドが中心にドカンと置かれている。どう考えても落ち着いていられる部屋ではないことは確かだ。


「…ねぇ、銀時。こんなところじゃ真面目な話できないよ」

「あ?できんだろ。こっちこいよ」


どかっとベッドに腰を下ろした銀時は、私にその横に座るように促した。おずおずと言われるがままに、同じようにベッドに座り込んだ。何だかいろんな意味で心臓がばくばくと音を鳴らしている。銀時の顔をちゃんと見ることができない。思わず膝の上で拳を握った。


「…んで、何から話しゃいーのかね」

「何からって…」

「月詠との関係?それとも俺の女関係?…それとも、俺がお前のことどう思ってるか知りてーの?」


最後の銀時の言葉に、私は思わず顔を上げる。何とも意地悪な口調だったにも関わらず、銀時は少し困ったような、はたまた少し嬉しそうな何とも言えない柔らかい表情で私を見つめる。


「…全部」

「あ?」

「全部、知りたい。銀時の口から、全部聞きたい」


私は強く銀時を見つめた。小太郎だってああ言ってくれたのだ。何も恐れることはない。それが何年越しの言葉だったとしても、私はもう自分の気持ちからは逃げない。私の真剣な顔を見て、銀時は眉を下げてまた優しく笑って。そしておもむろに膝の上で握られていた私の拳を、ぎゅっと握った。


「じゃーまず、月詠のこと…って別にアイツのことで話すことなんてねェんだけど。何度か吉原の揉め事に巻き込まれて、ちょっと助けてやっただけの話だ。基本的に地下にいる奴らだから、んな頻繁に会うよーな仲じゃねーし」

「でも、銀時って呼んでた。銀時の周りで銀時のことを名前で呼ぶ女の人なんていないのに。…九兵衛ちゃん以外」

「いや、今すでにいたよね?何で九兵衛はいいの?つーか俺にとったら九兵衛も月詠も同じジャンルっつーか、女として見てねーっつーか」

「じゃあ、妙ちゃんは女として見てるの?」

「いや、お前会ったことあるよね?女どころか人間でもねーじゃん、あのメスゴリラ」


さっき小太郎に安心しろなんて言われたのに、また自分の中の黒い何かが顔を出して、銀時を責めるような口調になってしまう。俯いた私に気付いた銀時は、握っていた私の手を自身の方へ少し引いた。


「あとは、お前のことどう思ってるか、か。言わねーでもわかってんのかと思ってたけど」

「それでも、…聞きたいの」


銀時は、ふぅと呆れたように息を吐いた。私はまた頭が重くなって視線を落とす。せっかく楽しい日々を送れていたのに、私はなんて面倒くさい女なんだろう。再会できただけでも、十分だというのに。どうして銀時の気持ちを確かめたくなってしまうんだろう。ぽたぽたと瞳から雫が零れ落ちる。


「…あーもう、泣くなよ。言やーいんだ…」

「私、銀時が好き。今も昔も、銀時がずっと好きだった…」


私は銀時の言葉を待たずに、小さく呟いた。ずっと我慢してきた、この気持ちが溢れ出すことを止めることができなかった。ずっと言いたかった。ずっと育んできたこの気持ちを、知って欲しかった。恐る恐る見上げた銀時の表情は、驚いたように目を見開いた。それこそ言わなくてもわかってると思っていたのに、そんなに驚かなくっても。


「…何で先に言っちゃうかねぇ」


そんな呆れたような声が聞こえた次の瞬間、銀時は私を思いきりサテンのベッドに押し倒した。




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