Dolce | ナノ


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「それは要するに、嫉妬だろう」

「…嫉妬?」


私がやってきたここは、小太郎の隠れ家。この前会った時に、何かあればここへ来いと地図を渡されていたのだ。まさかこれがこんな形で役に立つとは思わなかった。先ほどの銀時とのやり取りを漏らすことなく話し終わると、小太郎はやれやれと言ったように笑って見せた。


「お前は寺小屋時代から、ずっと銀時の隣にいたからなぁ。だからきっとそういう感情に疎いのだろう。なまえ、お前も大人になったんだなぁ、お兄ちゃんは嬉しいぞォー!」

「もう!小太郎まで子供扱いしないで!」


がしゃがしゃと私の頭を撫でる小太郎の腕をぺっぺっと叩いて、口を尖らせる。そんなことに気にもとめず、はっはっは、と声を上げて笑う小太郎に私はため息をついた。


「確かに小太郎の言う通り、今まで銀時の周りに私以外の女の子がいたことってなかったもんね。勝手に銀時の隣は私だと思ってたし、銀時もそう思ってると思ってたの。でもこうやって月日が経って、ずっと離れて暮らしてたから、…何ていうか前までは何も言わなくても通じ合ってた気がしてたのに。今は全然銀時の考えてることがわかんないの」

「…お前たち、互いの気持ちを伝え合ってはいないのか?」

「…うん。私も、銀時が好きなんて言ったことないし、もちろん銀時にも言われたことないよ」

「そうだったのか。俺はてっきりお前たちはそういう関係でいるものだと思っていたのだが…」


小太郎は驚いたように「なぁ、エリザベス」なんて後ろのトリの着ぐるみさんに話しかけている。そういえばエリザベスって名前だったっけ。そしてエリザベスはまた[桂さん、甘酸っぱい二人ですね]なんてプラカードを持っている。意思疎通ができるんだ、やっぱり不思議な生き物だ。


「何はともあれ。なまえが心配するようなことは何もないぞ、それは俺が保証しよう。ここだけの話、当時の銀時はお前が連れて行かれてからというもの、毎晩見張り役をやってお前の帰りを待っていたのだ。いよいよ死んだのかもしれない、となってからの銀時は、見るに耐えないほどやつれて塞ぎ込んでいた。あの高杉でさえも心配するほどにな」

「…そうだったの?」

「それから銀時の前で、お前の話を出すのは暗黙の了解でタブーとなった。うっかりお前の名前を出した日の戦場は、荒れに荒れていたなぁ。俺たちだってお前を心底大切に思っていた。だが、銀時はそれ以上に、お前を想っていたんだ。…そのお前が生きていた。銀時はこれ以上の喜びはあるまいよ」

「…」


万事屋で再会した日のことを思い出していた。銀時は私の顔を見て、本当に驚いていた。そして私を部屋に入れて、すぐに銀時は長い厠に立った。厠から戻った銀時の目が真っ赤だったのは、…そういうことだったのか。


「…小太郎、私、銀時の大切な友達に嫌な態度とっちゃった。しかも、ひどいこと言っちゃった。…どうしよう」

「どうするもこうするも、お前には言わねばならんことがあるだろう。…と噂をすれば何とやらだ」


小太郎の言葉と同時に、外からスクーターのエンジン音が聞こえてきた。これ、銀時はバイクの音。私が困ったら小太郎に頼るなんてこと、銀時にはお見通しだったということか。私は苦笑いを浮かべた。


「なまえ、銀時の元へ行ってやれ。もうお前は攘夷志士なんかじゃない、一人の女の子なのだから。いい加減自分の気持ちに正直になっても、バチはあたるまい」

「…小太郎」


思わず私は小太郎に抱きついて、小さく「ありがとう」と呟いた。小太郎はいつだって、こうやって温かいぬくもりで私を包み込んで、安心させてくれる。昔からずっとそうだった。銀時と喧嘩して泣いていた時も、晋助に負かされた時も、…松陽先生が連れて行かれた時も。小太郎はお兄ちゃんと言うよりも、お母さんみたいな存在だ。
ポンと肩を叩かれた私は、もう一度小太郎にお礼を言って、愛しい人の元へと走って行った。




「…何とも損な役回りだとは思わんか?エリザベスよ」

[桂さん、今日は泣いてもいいですよ]

「……エリザベスぅぅぅー!!」





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