▼ 3/3
「あいつら、引っ掻き回すだけ引っ掻き回して帰りやがって」
真選組の二人は屯所に呼ばれたとか何とかで、お化け屋敷を出たあとすぐに帰って行ってしまった。げっそりとした銀ちゃんを見て、少し反省した私はその後銀ちゃんが乗りたいらしいジェットコースターやゴーカートに付き合って、ギャーギャーと子供顔負けのテンションではしゃぎ倒した。そんなことをしていたら、辺りはもう夕暮れ時。そわそわとしながら私は銀ちゃんの手を強く握った。
「ね、銀ちゃん。最後に観覧車乗らない?」
自分で土方さんたちを引き入れておきながら、銀ちゃんと二人きりになりたいなんて、ワガママで呆れられちゃうかもしれない。少しだけ顔色を伺うように、銀ちゃんの顔を盗み見た。夕日を背に、柔らかく笑う銀ちゃんの銀色の髪が赤く染まって、私の心はぎゅっと掴まれた。
「おー、暗くなる前に乗っちまうか」
パンダの着ぐるみを着た係員さんにフリーパスのチケットを見せて、無事に乗り込んだ私たちは、ゆっくりと離れていく地上を見下ろした。綺麗な夕焼けだなぁ。…あーあ帰りたくないなぁ。
「楽しかったのかよ?」
「…うん!すっごい楽しかった!銀ちゃん、ありがとね、連れてきてくれて」
向かい合わせに座る銀ちゃんは、窓の縁に肘をついて頬杖をしたまま私に視線をよこした。ワガママ言って散々振り回したのに、文句一つ言わない(いや言ってたけど)銀ちゃんに、心底感謝をしている。遊園地なんてガキの行くとこだろ、なんて言ってたくせにちゃっかり銀ちゃんも楽しんでたみたいで、よかった。
「なまえ」
「んー?」
「誕生日おめっとさん」
そう言って銀ちゃんは、懐から綺麗にラッピングされた小箱を手渡してきた。驚きのあまり声を出せずに、それを受け取って、銀ちゃんを見つめた。だって、銀ちゃん…
「お金ないからプレゼントないって、言ってたじゃん…」
「まーな。だから大したもんじゃねーけど」
「開けてもいい?」
「どーぞ」
少し照れたような顔をする銀ちゃんに、私の心が温かくなる。お言葉に甘えて、失礼ながら目の前で箱を開いた。そして、その箱の中に小さく飾られたものを確認するなり、私の瞳からは涙が滲み出す。…もう、この人は本当に、ずるい男。
「……銀ちゃ…」
「えっ!?何で!?これじゃなかった!?前に雑誌見ながらこれ可愛い!って言ってなかった?!」
「ううん、…違くない、…っ」
そう、箱の中に入っていたのは、私が前から気になっていた天使の羽をモチーフにしたイヤリング。でも、銀ちゃんは「こんな可愛らしいの、お前にゃ似合わねーよ」なんて意地悪を言ってきたくせに。その上「プレゼントあげる金なんかねーよ。銀さんっつープレゼントでいいだろ?プライスレスだろ?」とか何とか言っていたくせに。ポロポロと溢れる涙に、銀ちゃんは慌てふためいた。
「泣くほど嬉しかったの?」
「…嬉しい。…もう、何でこんなカッコいいことするの…銀ちゃんのくせに」
「くせにって何だ、銀さんだからカッコいいんだろ?コノヤロー」
「銀ちゃぁぁぁん」
「うぉっ!」
いてもたってもいられなくなって、私は銀ちゃんの胸に飛び込んだ。ガタンと揺れるゴンドラに、銀ちゃんは何とも情けない声を上げて、私を受け止めた。私はその箱を握りしめて銀ちゃんの胸に顔を埋めて、声を上げて泣いた。
「…銀ちゃん、普段は全っ然かっこよくないけど…」
「えっ?なに突然?不満暴露大会?誕生日だから?誕生日だから何でも許されるの?」
「…家賃も払わないし、新八くんや神楽ちゃんに給料渡さないし…たまに私にたかるし」
「ちょっと待って、二人きりなのにそういうこと言われると、さすがの銀さんも心折れちゃうよ?!」
「でもね、大好きなの。…優しくて、強くって、たまにこうやってかっこいいところがある銀ちゃんが、…好き」
胸に埋めた顔を上げて、銀ちゃんの顔を見つめる。また恥ずかしそうな顔で外へを視線を逃していた銀ちゃんは、はぁっとため息をついて、私の頭を優しく撫でた。
「あのさ、そういう可愛いことは、ベッドの中で言ってくんねェ?」
不満気な表情を私に向けたかと思えば、ふっと破顔して優しく私の口に自身の唇を重ねた。外だというのに、銀ちゃんは何度も角度を変えて私の唇を啄ばんだ。私も必死に応えようと、銀ちゃんの唇を受け入れた。やっと離してくれたかと思いきや、私はまた銀ちゃんの腕に包まれた。
「…なまえ、好き。来年も、再来年もまた祝ってやるからな」
「うん、絶対、約束だからね…」
私は銀ちゃんの腕の中で、銀ちゃんの温もりといっぱいの愛情を感じながら、小さく頷いた。来年も、再来年も。この先ずっと、銀ちゃんと一緒にいられますように。…そんな願いを胸に抱きながら。
Birthday Eevent
(銀ちゃん、大好き)
(俺もだよ、マイエンジェルちゃん)
(……)
(…オイ、なんか言えよ、スベってるみたくなってんじやねーか)
prev / next