Dolce | ナノ


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パンパカパーン、と効果音が聞こえてきそうなほど大きなくす玉が引かれ、中からは「修羅の華 おかえりなさい!」なんて文字が書かれた垂れ幕が落ちてくる。それを見て私は彼らしいと思わず笑ってしまった。


「なまえ、まさかお前に生きて会えるとは思わなかったぞ!何度あの日のことを後悔したことか…」

「もー小太郎、湿っぽいのはやめよ!お互いに無事だったんだから」

「…それもそうだな。なまえ、久しぶりの再会だ。懐かしい友にカンパ」

「何でテメーが仕切ってんだよ!ヅラァ!」


げしっと小太郎を蹴飛ばす銀時は、そのままどかっとソファに座った。まぁ確かに言われてみればそうだ。ここは万事屋であって、万事屋の長は銀時だ。銀時が仕切るのが普通だろう。


「ヅラじゃない、桂だ!」

「アハハ、まだそのフレーズ健在なんだ」

「じゃあみなさん、銀さんとなまえさんと桂さんの再会を祝し、カンパーイ!」

「「カンパーイ!」」

「ってオイィィィィ!!!」


新八くんの掛け声で、私は小太郎や神楽ちゃんたちとグラスを合わせた。けっと不機嫌そうな銀時の横に座り、グラスを傾けると渋々チンと音を立てグラスを合わせてくれた。銀時が気を利かせて小太郎に連絡をしたそうで、万事屋でパーティが開かれることになった。小太郎は相変わらずボケボケな性格をしていて、何も変わらないことに安堵した。隣にはなぜか着ぐるみのような謎の生物がいるけれど。よく見ると手に持ったプラカードには[おかえりなさい!]なんて書いてある。どなたか存じませんが、ありがとうございます。


「それにしてもなまえ、お前随分髪が伸びたなぁ!後ろ姿なんか俺にソックリではないか」

「前さぁよく、みんなに背向けてどっちが桂だゲームしたよね!」

「アレ楽しんでたの、お前らだけだけどな」

「しかし坂本はいつも間違えていたよなぁ!」

「晋助は絶対答えてくれたよね!『右がなまえで、左がヅラだ』とか割と真剣に参加してくれてたよね」

「じゃあなまえ、あれは覚えているか?…」


なんて久々の再会に沢山の思い出話に華を咲かせた。新八くんや神楽ちゃんには申し訳ないと思ったが、意外と興味津々で話を聞いてくれて、あんなことがあった、こんなことがあったとみんなで思い出に浸っていた。そんなことをしていたら、もういい時間になってしまった。そろそろお開きか、なんて時に私はトイレに立った。用を足し終えて居間に戻ろうとした私は、聞こえてきた声に思わず手を止める。


「オイヅラ、あんな銀ちゃん見たことないアル!すごいなまえにデレデレしてるアル!!」

「うるせー、クソガキ。ガキはもう寝る時間だぞ」

「リーダーは勘が鋭いな。銀時は昔からなまえにだけはめっぽう弱い。まぁ、俺や高杉にとっても、なまえは妹のようなものだからなぁ」

「銀さんもあんな優しい顔ができるんだって、驚きましたよ!」

「オイそれどーいう意味だよ!」


私はこみ上げる嬉しさを隠し、聞こえないふりをしながら、居間に戻ると銀時はちょっとだけ気まずそうに照れた顔で口を尖らせていた。そんな銀時に「何?」なんて声をかけたが「…何でもねェよ」と予想通りの答えが返ってきた。私はバレないようにクスリと笑った。



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「銀時、…本当にいいの?」

「いーんだよ、気にすんな」


新八くんと小太郎たちが帰って行き、神楽ちゃんもおやすみアル、と声をかけてきて早々に寝室へ行ってしまった。そして銀時は私に銀時の布団で寝るように促し、自身はソファで寝ると言うもんだから、さすがの私も申し訳なくなってしまった。泊めてもらえるだけでありがたいのに、家主を差し置いて自分だけ布団で寝るなんて。うんと頷かない私に気を使ってか、銀時はある条件を出した。


「んーじゃあさ、その代わりといっちゃ何だけど。もう少し付き合ってくんね?」


ひょいひょいと日本酒の瓶を振って、ニヤリと笑う銀時に私は喜んで付き合うことにした。


「…何でもいいけど、何で隣に座んの」

「あっごめん!癖で、つい…」


昔から私の隣には銀時がいた。席も隣だったし、ご飯を食べる時も寝る時も、ずっと銀時の隣だった。だからついつい癖で、何も考えずにこうして隣に座ってしまう。でももうあの頃とは違う。随分と時間が経ってしまっているのだ、と思い直し私は立ち上がった。にも関わらず、銀時は私の腕をぐいっと引いた。


「あ、いや、嫌とかじゃなくて。いいんだよ、…隣にいろよ」

「なに、…変なの」

「っせーよ」


もごもご言葉を濁らせる銀時は、それを誤魔化すようにぐいっと酒を飲み干した。私も注がれた日本酒をひとくち口に含み、何となく言葉を発することなくこの空間を噛み締めていた。もう訪れることのないと思っていた、この空間。何を言うわけでも、するわけでもないのに、私はこうして銀時と過ごす時間が昔から好きだった。不意に銀時は、私の髪の毛に手櫛を通した。


「ほんと、髪伸びたな」

「頑張って伸ばしてるの、手入れも大変だけどね」

「…俺の為?」

「えっ…」

「俺が髪伸ばせって言ったから、伸ばしてんの?」


私はその言葉に、ばっと銀時の顔へ向き直った。まさか銀時が、そのことを覚えていたなんて、少しも思わなかったから。
…まだ戦争中に、銀時が言ったのだ。

『全部終わったら、お前髪伸ばせよ。俺は髪が長い女が好きなんだよ』

なんて、肩くらいまでの長さの髪を束ねていた私に、とても悲しそうな顔で。銀時は私が攘夷戦争に参加することを最後まで反対していた。それでも私はこの剣術が活きるならと、反対を押し切って参加したのだ。女らしさなんか、少しも気にしたことなんてなかった。それでもきっと銀時は、ずっと私のことを心配してくれていたんだろうと思う。男に囲まれて生活をして、人を斬り、時には傷だらけになっていた私を。ちゃんと女として見てくれていたんだと思う。


「そうだよ」


柔らかく笑ってみせると、銀時は少し目を見開いて、同じように笑って見せた。そして髪をといていた手を、私の頬に移動させる。私はその動作にぴくりと反応してしまった。キスでもされるのかと、私の心臓は期待にバクバクと音を立てる。


「キレーんなったな、なまえ」


そして銀時の顔が近づいてきたかと思えば、するっと頬から手がずり落ちて、銀時はそのまま私の膝の上にがくんと倒れこんできた。


「…銀時」


銀時の顔を覗き込むと、気持ちよさそうに寝息を立てている。飲みすぎたのかな、と期待してしまった心をどうにか冷静にさせて、私は銀時の髪をふわふわと撫でた。こんな寝顔が見られるのだって、きっと私だけだと思い直し、いつの間にか私もそのまま眠りに落ちてしまった。





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