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「ねぇ、いつになったら高杉晋助に会わせてくれるの!?」

「あ、なまえ。おはよう」


春雨第七師団の海賊船にお世話に(?)なりだしてから早一週間が経過した日の朝。いや、ここは宇宙だから朝というのが正しいのかは定かではないが、とにかく私のために用意された一室で目を覚まして身支度を整え、食事を取る為に食堂室に向かっていた私は、前方を歩いていた神威を引っ捕まえて眉を釣り上げていた。明らかに怒っている私に気にもせずにまたニコニコと笑顔を向ける神威に頬を膨らませた。


「っていうか、私の方が年上なんだから呼び捨てにしないでよ!」

「細かいことは気にしない、気にしない。それより朝から元気だね。俺、低血圧だから羨ましいなァ」

「低血圧な人は朝からそんなヘラヘラしてないわよ」

「そうかな?」

「オイなまえ、朝からデカイ声出すなよ」

「あ、阿伏兎おはよー」

「団長、ちゃんと躾けてくれよなァ。勝手にどこぞの野良猫拾ってきたんだからよォ」

「ジャングルで育った熊みたいな阿伏兎に言われたくないんですけど」

「だってさ、阿伏兎。兎から熊に昇格だね」

「褒めてねェよなァ、それ」


相変わらずニコニコと笑う神威に、眉を上げ肩を竦める阿伏兎。まだ一週間程度しか共に過ごしていないのに、何だか昔からの友人のような気分で接せられるのは私がこの世界を知っているからなのか、この二人の気さくな性格のおかげなのかはわからない。だけど居心地がいいというのは、確かなことだった。食堂室で三人でご飯を済ませば各々やることがあるようで私は手持ち無沙汰になってしまった。超がつくほどの一般人の私がこの夜兎族たちに並ぶほど何か優れたものがあるはずもなく、この一週間そうしてきたように書棚から数本の本を取って自室で時間をつぶしていた。


「……それにしても、本当にいつになったら高杉に会わせてくれるんだろう。高杉に会えなきゃ宇宙まで来た意味がないのに…」


はぁっと肩を落としながら、そんなことを独りごちた。あまり考えないようにしていたのに、こうも一人の時間が多いと考えてしまう。現実世界はどうなっているのか、職場で私はどういう扱いで休めているのだろうか。そんなつまらない現実的なことばかり、頭がいっぱいになってしまう。こんな宇宙に飛び出すくらいなら、やっぱり銀さんのところに行ってみればよかった。宇宙よりはいくらかやることがありそうだし、何より楽しそうだ。……はぁ〜、私ってバカなのかなぁ。


「ため息つくと幸せが逃げるって、先生に言われなかった?」

「言われたけどさぁ、ため息つかなくたって幸せなんて……って、わあぁあ!!」

「アハハ、このやり取り2回目だよ。いい加減慣れてよ」


ぼんやり考え事をしていたせいで、いつの間にか目の前にいた神威の存在に全く気づかなかった。ベッドに腰をかけていた私は驚きのあまり後ろにゴロンと転がってしまった。そんな私を可笑しそうに肩を揺らして笑う神威が、もういい加減憎くて仕方がない。いくつも年下だというのに、何だか余裕げで人をバカにしているようなこの態度。だから年下って嫌いなのよ!


「…何?なんか用?」

「ねぇなまえってさ、何で晋助に会いたいの?」

「……何でって、…」

「晋助のこと、好きなの?」

「へ?」


キョトンとした顔で私の瞳を覗き込む神威に私の心臓が図らずも飛び上がった。年下だから年下だからとあまり今まで興味を持ったことがなかったこの男。よく見れば結構綺麗な顔立ちをしている。肌も透き通るほどにきめ細かくて、瞳は大きいし、オレンジの髪が眩しくって敵わない。


「…好き、っていうか、…まぁ好きは好きだけど…」

「ふーん?」


好きなことに変わりはない。ファンだと自覚をしているし、ファンということはイコールその人が好きということになるんだろう。だけど、なんて言うかこうこんなにも直球で聞かれると何だか恥ずかしくなってしまう。ごもごもと言葉を濁らせる私から目を逸らして少し考えるような素振りをした神威は、またすぐに私の瞳を覗き込んだ。


「好きってどういう感情なの?」

「…えっ?!」

「どういう気持ちになると、好きってことになるの?」

「……どういうって、…。例えばその人のことばかり考えちゃったりとか、もっとその人を知りたいとか?顔が見たいとか、なんかそういうことじゃないのかな」

「ふーん、じゃあキスしたいとか触れたいとか、そういうのは好きってことにならないの?」

「…いやまぁそういう気持ちが先に来る人もいるみたいだけど、私はそういうのはわかんないや」

「……ふーん?」


またそう唸りながら視線を右斜め上に移した神威に、私は訝しげに眉を顰めた。18歳の男の子がこういった感情に疎いなんて変な話ではあるが、それが神威ならば仕方がないのかもしれない。私が知っている限りの彼は、闘い一色の人生だったはずだから。何もおかしいことはない。ただ不思議に思うのは、何でそんなことを聞いてくるのか、ということだ。


「…かもしれないね」

「え?何?ごめん、聞こえな…」


何か神威が言ったような気がする。聞こえずに聞き返した私の言葉が最後まで言い切ることができなかった。

一瞬見えた神威の笑顔。そしてその笑顔が私に近づいてきたと思えば、柔らかい何かが私の唇に触れた。


「俺、なまえのこと好きなのかもしれない」


「…………へ?」

「だって、可愛い、キスしたいって思っちゃったんだもん」


一瞬触れた唇がすぐに離れて、また視界いっぱいに神威のあの人好きな笑顔が映し出された。突然のことに繰り返し瞬く瞼を止めることができない。へ、今、なんて言った。ていうか、今、何をした。


「晋助じゃなくって、俺じゃダメ?」


あどけない神威の笑顔に私の心は思い切り鷲掴みにされた気がした。何で、こんなに後先考えないで行動できるんだろう。若さ故ってやつ?やっぱり10代ともなれば、怖いもんなんてないの?それとも、神威だからなの?とにもかくにも私は叫ばずにはいられなかった。



「えええェェェェェェ!!?!」



銀魂の世界にトリップするというとんでもイベント。高杉晋助に会いたいがために飛んできた宇宙。しかし、神威に拾われてしまったのが運の尽きだったのだろう。私が高杉晋助に会えるのはまだまだ先になりそうだし、それより先にこの胸のときめきをどうにか止める方法を考えなければ、私の願いはいつまで経っても叶いそうにない。

…それでもいいかも、なんて思ってしまっているのは、目の前の神威の笑顔があまりに眩しかったから。





だから年下の男は嫌い
(も、もっと順序ってもんがあるでしょ!)
(順序?思い立ったらすぐ行動、だよ?)
(それらしいこと言ってるけど何も考えてないだけの子供じゃない!!!バカバカ!)
(なまえ、顔赤いよ?)
(うるさい!)
(あともう一つ、晋助は今宇宙にはいないよ。地球にいるはずだからね)
(はァァァァァ!?)




-end-



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はな様!今回はリクエストありがとうございました♪
ちょっと1Pで収めるには私の力不足で…何とかぎゅうぎゅうで2Pで執筆させていただきました!すみません( ; ; )

今回は神威×平凡会社員×トリップというとても楽しそうなリクエストで実はメッセージを頂いてからすぐに執筆させていただきました!初の神威夢だったので自信がなかったのですが、案外楽しく執筆できました♪

貴重な体験ありがとうございます!(笑)
気に入ってくだされば嬉しいです♪
本当にありがとうございました。
これからもよろしくお願いいたします(^−^)

4/27 reina.



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