Agrodolce | ナノ


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「ちったァ落ち着いたか?」

「うん…ごめんね、銀さん」

「何、どーしたの。あのV字前髪と何かあったのかよ」


銀さんの何気ない発言がまた胸に突き刺さって私の瞳にはまた涙が浮かぶ。そんな私を見るなり、しまった!と言うような顔でまた慌てふためき出す銀さんに私は思わず笑みがこぼれた。


「何かさ、私土方さんのこと好きで好きで仕方なかったんだ。だから付き合えた時は本当に嬉しかったし、もうこれ以上何もいらない!なんて思ってたのに、やっぱりダメだね。次から次へと色んな欲求が出て来ちゃってさ」

「何、なまえちゃん若いのに結構わかってんじゃん」

「ずっと連絡こなくってさ。私のことなんてどーだっていいんだ、って思っちゃって、…別れようって言っちゃった」

「…ふーん、んで、アイツは?」

「話はそれだけか、って。電話切られちゃった」

「ったくあのヤローはんっとに女心がわかってねェなァ」


かーっと声をあげながら呆れ顔を浮かべる銀さんも私と土方さんの関係を知っている一人。銀さんとはすまいるで顔馴染みになってから妙ちゃん経由でよくしてもらっているお兄ちゃんみたいなものだ。土方さんと付き合ったことを伝えれば「なまえちゃん見る目ないね」なんてジト目を向けられたのがつい最近のことのように感じる。


「土方さんは、私のことなんて好きじゃなかったんだよ。みんなに言われて仕方なく付き合ってくれたんだよ、きっと」

「んなできたヤツにゃ見えねェけどな。さすがにそりゃないんじゃねーの?わかんねーけど」

「仕事が忙しいって言うのもわかってるんだ。あんな仕事してるんだもん。私のことなんて構ってる暇ないって、本当はわかってるの。だけど、別れようって言った時、引き止めてくれるかなぁって思っちゃったんだ」

「試したわけだ?」

「まぁ、そうなるよね…」

「なまえちゃん意外と打算的な子なんだね」

「やっぱ性格悪かったかなぁ…!?」

「いーや銀さんはそれくらいの方が好きだけどぉ?」

「…銀さんに好かれても嬉しくないんですけど!?」


むぅっと唇を尖らせて銀さんを睨みつければ、ビールを煽りながらちぇっと少しも残念そうじゃないわざとらしい舌打ちをして柔らかく笑った。そして私から視線を逸らして、すぐにまた私に視線を戻した銀さんは呆れたように眉を下げて笑った。


「…ま、後は本人に言ってやんな。今にも斬りかかってきそうだから」

「…へ?」


ちょいちょいと顎をしゃくった銀さんにつられて後ろを振り返れば居酒屋の引き戸の窓からこちらを睨みつけている…土方さんの姿が目に飛び込んできた。私と目が合った瞬間踵を返して戸から離れる土方さんに、私は思わず立ち上がった。そしてすぐに財布からお札を取り出して机に叩きつけた。


「銀さん!話聞いてくれてありがとう、お礼にここは私のおごり!じゃあ私行くね!」

「お、マジ?ゴチになります!あ、なまえちゃん、マヨラーがダメだったらいつでも銀さんとこ…」

「またね銀さん!」

「ちょ、最後まで言わせてェ!?」


銀さんを一人残し私は勢いよく居酒屋を飛び出した。背を向けて歩く土方さんに駆け寄れば土方さんは静かにこちらを振り返った。その表情は怒っているような随分と冷たい表情だった。


「もうあの天パヤローに乗り換えたのか」

「…ちが…っ!」

「随分尻が軽いこった」

「……っ」


怒っている。明らかに土方さんは怒っている。私は慌てて弁解しようとしたのに、先ほどの電話を思い出して言葉を飲み込んだ。何でそんなこと言うの。土方さんだって私のことなんて少しも好きじゃないのに付き合ってたんじゃない。そんなこと言われる筋合いないよ。どれだけ私がショックだったか、少しもわかってない。


「…の……」

「あァ?」

「土方のバカヤロー!!!!」

「…なっ…!」


突然大きな声で叫ぶ私の元に大慌てで駆け寄る土方さんを押し返して、きっと涙が溜まった瞳を向ければ、驚いたような土方さんの瞳とぶつかった。その瞳を見つめれば溢れ出す涙とこみ上げる感情が止まらない。


「土方さんこそ、私のことなんて少しも好きじゃないくせに!!!」

「…ちょっ、…」

「何でそんなこと言うの!?さっきだって別れようって言ったら、それだけか?って!ひどいよ!理由くらい聞いてよ!!」

「オイ…」

「忙しいのはわかるけど!何でメール一本もくれないの!?土方さんと連絡取りたいって、会いたいって思うのは私だけだったんだ!ひどいよ、バカ!土方のバカ!マヨラー!ニコ中!V字ハゲ!」

「ハゲてねェよ!!!!」

「好きじゃないなら何で付き合ったの!妙ちゃんや近藤さんに言われたから!?」

「オイ、聞けって、…」

「こんなんなら、付き合わない方が幸せだったよ…!」

「オイ、なまえ!」


うわーんと涙をこぼす私を制すように土方さんが一際大きな声で私の言葉を遮った。思わずそこで言葉を止めれば、眉をしかめ何か悩むような素ぶりをしながらガシガシと後頭部を掻きむしっている。…え、今、…なまえって…。そして次の瞬間私は土方さんに抱きしめられていた。


「…何一人で突っ走ってんだよ」

「だって、…だって寂しかったんだもん。仕事忙しいのはわかってるけど、本当は声だけでも聞きたかった。寂しかったんだよ……」

「悪かったよ、別に仕事のせいにするつもりはねェ。…俺自身の問題だ」

「…土方さん自身…?」


人目があると言うのに、私を抱きしめたまま離さない土方さんに私はその腕の中で首を傾げた。土方さんって人前でこういうことする人じゃないのに、どうしちゃったんだろう。それに俺自身の問題って?


「…つい悩んじまうんだ」

「…何を?」

「………」

「土方さん…?」

「何てメール送ったら喜んでくれるのかとか、会ってどんな話すりゃ笑ってくれんのかとか…柄にもねェこと考えちまって。気付けばこのザマだ。メール一つ送れやしねェ」

「…え」

「つまんねェヤローだとか、思われたくなかったんだよ…」


徐々に小さくなっていく土方さんの声をゆっくりと聞きこぼさないように一つ一つ頭で理解していく。だけど、聞けば聞くほど理解が出来なくなっていくのも事実。だって、それって、…それって。


「俺だってお前に惚れてんだ。…嫌われたくなかったんだよ」


トドメの一言で私の涙腺は完全に崩壊した。また泣き出す私にえ?なんで!?と声を上げる土方さんの背に手を回して、ぎゅっと抱き返した。土方さんの本心に触れることができて、嬉しさや恥ずかしさが溢れ出す。土方さんも私のこと好きなの?本当に?どうしよう、嬉しい。


「…っでも、さっき別れようっていったら…それだけか?って、…電話、切ったじゃん…」

「あの時は本当に忙しかったんだ。それに電話で話すことじゃねェと思ったから、後でお前んち行って話せばいいと思ったからで…どうでもよくて切ったわけじゃねェよ」

「それに、土方さん、私の名前呼んでくれないし、好きとか、…一回も言われたことないし…っ!」

「んなこと…言わなくたってわかるだろーが」

「…わかんない。言ってくれなきゃわかんないよ…」


ぎゅっと強く土方さんを抱きしめれば、二、三度溜息のような呼吸が聞こえてきて、私はまた腕の中で眉を下げた。人前で脇目も振らずにこんなことをしてくれるなんて。私に嫌われたくないから連絡できなかったなんて。…本当はわかってる。土方さんの気持ち、ちゃんと伝わってるよ。だけどちゃんと聞きたい時だってあるんだよ。


「…好きだ、なまえ。もう別れようなんて、軽々しく言うんじゃねェ。いくつ命があっても足りねェよ」


恥ずかしそうにそう耳元で囁く土方さんの腕の中から顔を上げれば、目の前には真っ赤に染まる愛しい顔。私はまた嬉しさに涙が浮かんだものの必死に笑顔を向ければ、土方さんも照れながらも柔らかく笑い返してくれた。


「土方さん、私も土方さんが大好き」



labyrinth
(これからは毎日なまえ好きだよって言ってね)
(え…いや、それは…)
(言ってほしいの!)
(…はい)




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ルイ様!大変お待たせして申し訳ございません(>_<)!
今回はリクエストありがとうございました!

リクエストをいただいた時点から1Pで終わらせられそうにない内容だったので2Pで執筆させていただいたのですが…いっぱいいっぱいになってしまって申し訳ございません(>_<)

ヒロインのイメージとしてはちょっとワガママで憎めない、ある意味とても女の子らしいイメージで執筆させていただきました。思ったらすぐ行動!
でも後から後悔…なんて女性は多いですよね(^-^)
土方さんのお相手って結構どんな女性でもぴったりですよね。不思議です。

ちなみにlabyrinth(ラビリンス)とは迷宮、迷路などなや意で恋愛というのは迷って立ち止まっての繰り返しかなぁと思いますし、何より私個人的なイメージでは土方さんを攻略するのってすごい大変そうだったので、こんなタイトルをつけました(^-^)

今回はお妙さんと銀ちゃん特別出演してもらいましたが、ヒロインに相手にされないこんな形の銀ちゃんも書いてて楽しかったです!
本当にお待たせしてしまって申し訳ございませんでした。
是非これからもよろしくお願い致します(^-^)

6/4 reina.


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