▼ もどかしいアイツ 1/2
チョコレートを買った翌日。要するに今日は、バレンタインデー当日。見廻りを終えて屯所に戻った私の目に入ったのは、どこかソワソワと落ち着きのない月詠。何でお前の方がそんなにソワソワしてるんだ。私はこんなに落ち着いているのに。と、思ったところで月詠の傍にある小さな箱を見て、私は内心ギクリとした。
「もう行けるのか?」
「…月詠、お前銀時にチョコあげるの?」
「え!?」
あからさまに動揺する月詠に私はぎこちなく笑みを作った。今更、何を驚いているんだ、私は。元々月詠は銀時のことが…好きなんだから、何も驚くようなことはないじゃないか。
「いや、これは、」
「あ、…義理チョコ、とか?」
慌てふためく月詠に、私こそ慌てて助け舟を出した。月詠はすぐさまそれに乗り、大げさに頷いてみせた。私の気持ちのせいで、月詠は自身の気持ちを抑えているのだ。私の幸せのために。最近は全蔵のことばかり考えていたが、月詠のことだってある。…何だか銀時との恋は、悩み事が尽きない。そして私たちはひのやに寄り、日輪に声をかけて早々に地上へと向かった。
「猿飛はもう渡しに行ったのかな〜」
「どうだかな。ぬし昨日、猿飛と何を話していたんじゃ?」
「あー、うん。全蔵のこと」
「また服部と何かあったのか?」
先日の全蔵とのやりとりは、誰にも話していない。わざわざ話すようなことでもないし、話したからって何かが変わるようなことでもないと思ったから。私は曖昧に笑って見せた。地上に上がった私たちは、道行くカップルを横目に女二人で町を歩いた。
「全蔵にチョコあげねーのかって聞かれただけ」
「服部には買っていないのか?」
「…ん、一応買った」
「まぁ、日頃の感謝を込めてという意味合いであげたって、銀時も何も言わないだろう」
結局昨日猿飛に絆されて、悩んだ挙句もう一つチョコレートを手にした。ちゃんとハートを避けて、いかにも義理チョコっぽい色合いで梱包されたものだ。まぁ正確には感謝より迷惑していることのほうが多いのだが。
「なまえ、まだ銀時と、その…付き合う気はないのか?」
「…え?」
もう万事屋はすぐそこ。そんな時に月詠が投げかけてきた質問に、私は思わず足を止めてしまった。
「…あ、いや。深い意味はありんせん。ただ気になっただけじゃ」
「あ、そう、そうだよね。うん、そろそろちゃんとしなきゃだよね…」
その質問を投げかけてきた真意が掴めず、私はしどろもどろに返事を返した。月詠はそんな私に、眉を下げて笑いかけた。
「もしそうなった暁には、わっちに一番に言いなんし。吉原総出で祝いの場を開こう」
「…ありがと」
優しく笑う月詠の瞳の奥の気持ちが読めなくて。私は曖昧に笑ってすぐに目を伏せて、歩みを進めた。
prev / next
bookmark