▼ 酔っ払いのアイツ 1/3
「なまえちゃ〜ん」
見廻りを終えて帰宅中の私の後ろから、何とも甘ったるい声が聞こえている気がするが、気のせいだ。シカトシカト。
「なまえちゃァ〜ん」
先ほどよりいくらかボリュームがでかくなっていて、道行く人が何だと振り返っている気がするが、気のせいだ。シカトシカト。
「なまえちゃァァ」
「っせーな!声でけーししつけーんだよ!」
足を止めて振り返る私に、両腕を広げて飛び込んでくるその男を軽快に避けて、ケツに蹴りをかます。見事クリーンヒットしたケツの穴を抑えながらこちらを見上げる全蔵は、珍しく全くめげそうにない。即座に起き上がり、私の肩に肘をかけた。
「なまえ、一杯付き合ってくれよ」
「無理。つーか、お前酒くさ!」
「なァ、一杯だけ。お前明日どーせ非番だろ?」
「無理無理。お前の一杯長いから無理。つーか何で非番なの知ってんだ!」
「木曜は大体非番じゃねーか、昔から」
酔っ払った全蔵は、それこそ昔から面倒くさい。ウザい・クドい・ウルサいの三拍子だ。どんどん体重のかかっていく肘をずり下ろして構いもせずに歩き出す私の腕を今度はぐいっと引っ張った。あーもう!何なんだ!
「全蔵、しつこい!お前に構ってると文句言うヤツがいるからやめてくんない?」
「よく言うぜ。猿飛から聞いたが、お前ら別に付き合ってるワケじゃねェらしいな」
「…何で猿飛からそんな情報が入るんだよ」
「さァな。お前とあのバカのこと知って怒り狂ってたぜ」
そーいや猿飛って銀時のストーカーしてるとか何とか言ってたっけ。てか、猿飛懐かしーなぁ。元気かなぁ。最後に会ったのは全蔵と付き合ってた頃だから、軽く数年は会ってないや。
「久しぶりに猿飛に会いたいなぁ」
「向こうは会いたかねェと思うがな。そろそろ怒鳴り込んできてもおかしくねーぞ」
ちぇっと舌打ちをした私の前に立ちはだかった全蔵は「一杯だけでいいからよ」と割と真剣な顔で私を見下ろした。一度言ったら聞かない全蔵にこうやって結局折れてしまうのは、いつも私の方だ。私は大袈裟にはぁっとため息をついた。
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