▼ アホ忍者はアイツ 1/3
あれから私たち百華は、地雷亜によって火を放たれた吉原の再起に奮闘していた。あらかた復興の目処が立った私はひのやで月詠と日輪とで、昨夜の月詠の失態を笑っていた。
「銀さん半泣きだったわよねぇ、なまえったら月詠が酒グセ悪いの知ってたなら先に言ってよ」
「久々に見たかったんだもん、めっちゃ笑ったわ」
「ぬしら、人の失態を笑うでない!」
恥ずかしそうに私たちを咎める月詠は唇を尖らせて拗ねている。笑いすぎて涙が浮かんだ私はそれを拭って、立ち上がり伸びをした。
「あらなまえ、どこ行くのさ」
「あのストーカーヤローにもお礼言わなきゃ、不本意だけど」
「地上に行くなら今日は非番にしといてやるから、ついでに万事屋にでも寄ってきなんし」
月詠の気遣いに私はひょいひょいと手を振って、ひのやを後にした。
『毎度ォ、忍々PIZZAでーす』
「あ、ピザお願いしたいんですけどぉ?いまどこですかぁ?」
『…中央公園の近くですけどォ?』
「5分以内に行くんでぇ、中央公園とやらで待っててくれますぅ?」
『そんじゃ、今ならサービスでサイドメニューの服部全蔵もおつけ』ガチャ
自分で付き合わせておきながら、続けるのが面倒になった私は早々に公衆電話の受話器を置いて、中央公園とやらに向かった。月詠から地図を受け取っておいて正解だった。じゃなきゃ迷子になっていたことだろう。
「何だよ、もう身体は平気なのかい」
「おかげさまでね。日輪から聞いたよ、ブスっ娘のサービス券と引き換えに手助けしてくれたみたいで」
「ありゃオマケだよ、オマケ。俺ァお前の力になりたかったんだ」
「ハイハイ。何でもいいけど感謝してるよ、ありがとね」
私の腰掛けるベンチに並んで座ると、全蔵はその間にピザの箱を置いた。それに気付いた私に、食べろと言うように顎で促した。
「…客のじゃねーの?」
「いーや。もう仕事は終わって、こらァ俺が家帰って食おーと思って持ってきたやつだ。食えよ」
「あっそぉ。じゃ、遠慮なく」
ピザを手に取りパクリと頬張る私を見て、全蔵は安心したように微笑んだ。続いて全蔵もピザに手を伸ばし頬張る姿を横目でチラリと覗く。
「こーやってお前とピザ食ってんと、昔を思い出すよなァ」
「全蔵、あんた本当昔バナシ好きだね」
「そらそーだろ?お前と過ごした波乱万丈な毎日は死ぬまで忘れらんねェよ」
「勝手に奮闘してただけでしょ?しかも自分の気持ちと」
「醜女好きの俺が、お前さんみてェな女を好きになるなんざ、そら葛藤もあるさね」
聞き飽きたセリフには何も返さずに、ぼんやりと公園で遊ぶ子供たちを見つめた。全蔵といた頃か。これといって大した思い出はないが、とにかく全蔵は毎日わざわざ吉原に降りて、私の顔を見に来ていたなぁ。フリーターヤローめ。毎日ピザを食べたり、ジャンプ読んだり、時には真剣に忍術勝負をしたりと、何だか色気のない日々を過ごしていたことだけは覚えている。何となく、居心地の良い存在だったのに、まさか浮気をされるとは夢にも思っていなかったっつーの。
「…お前、ジャンプ侍に惚れてんのか」
「はっ!?どいつもこいつも何なの?惚れてなんかねーよ!あんなアホヅラ!」
「あ、そう?それなら話が早ェや」
立ち上がりピザを持っていた指をペロッと舐めて、私の前に立ちはだかる全蔵に私は訝しげな表情を向けた。つーかこいついつまでこの紺のジャケット着てんだろう。
「俺ァあのアホヅラ侍に、お前を譲るつもりはねェ」
「いや、譲るもクソもあんたのものでもないんですけど…」
「なまえ、お前を護れるのは俺だけだ。あんなぽっと出のちゃらんぽらんにお前を盗られてたまるかってんだ」
…こいつはなぜこうも突然スイッチが入るんだろうか。さっきまで仲良くピザ食べてたってのに。ピザを食べ終えた私の手を掴み、全蔵は真剣な表情で私を見下ろした。
「大体あんたが浮気したから悪いんじゃん」
「あれは浮気なんかじゃねェ、あの時……」
と、その時、そこまで言いかけた全蔵は突然大きな音を立てて私の横を掠め、思い切り樹木へと突っ込んだ。突然すぎる出来事に、思わず全蔵がすっ飛んでいった方へ振り返った。
「えっ、何!?ちょっと全蔵!!?」
「あっれー、おかしいなァ。ここに立体駐車場があったと思ったんだけどォ」
前に向き直ると、そこには銀色のバイクに跨った、これまた銀色の髪をした男がニヤリと笑みを向けてきた。
「銀時!」
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