Ichika -carré- | ナノ


▼ もう一つの居場所と出迎えるアイツ 1/3



あれからタイミングよく帰宅した神楽と新八にお礼を言い、あれやこれやと準備をして机についた私たちは鍋を前に手を合わせて声を揃えた。


「「いただきまーす!」」


「…じゃねェェェ!!!!!」


と、声を上げて立ち上がったのは他でもなく私。箸を片手に鍋を突こうとする銀時、神楽、新八が何事かと私を見上げた。私は机の上に置かれたあるものを指差してくわっと眉を釣り上げた。


「いただきまーす、じゃねーよ!オイ神楽。確かに私は黒毛和牛買ってこいって言ったよ!私がご馳走するとも言った」

「…そうネ?だから買ってきたアルよ、黒毛和牛」

「3キロも買ってくるやつがどこにいんだァァァ!!!」


山盛りを通り越しててんこ盛りに盛られた3キロ分の黒毛和牛。黒毛和牛ってお前100gいくらすんのか知ってんのか?このがめつさは社長譲りなのか!?それにしても新八がついていながら何でこんなことに。ちらっと新八に視線を寄越せば眉を下げてへへ、と笑う新八。


「いくらご馳走してもらうからって、こんな量僕も止めたんですけど…余ったら姉上に持って帰ろうかなって」

「何でお前人の金で妙に飯食わせよーとしてんだ!!!オイ銀時、お前ガキどもの教育どーなってん…」

「へ?はひは?」


気が付けば銀時はすでに鍋に箸を突っ込みハフハフと一人で肉をかっこんでいる。それに気付いた二人もずるいと言わんばかりに鍋に箸を伸ばし出した。…何なのこいつら。つーか銀時!お前さっきまでのテンションはどこ行ったんだよ!なに我先にと肉を食らってやがる!


「ほら、お前も食わねーとなくなんぞ」

「人の金で食える飯によくそんなこと言えるなお前は、プライドはねーのかクソ野郎!」

「銀ちゃん!せっかく仲直りしたのに喧嘩すんなヨ!なまえがいれば美味しいものたくさん食べられるんダヨ!」

「神楽、私はお前らを養う気はねーからな!」

「えっ!?そうなんですか!?」

「オイ新八、お前も何で思いっきり私にタカる気満々なんだよ!」

「せめて銀さんのことは養ってくれよな」

「え、もう何なのお前ら!?私なんかすごい人生の選択を間違えてる気がする!銀時なんかでいいのか?私の人生本当にそれでいいのか!?」


一人絶望する私に気にもとめず鍋をつつく万事屋の連中に呆れながらも、私も大人しく銀時の横に腰を下ろして鍋へと箸を伸ばした。やんややんやと笑いながら鍋を囲うこの空間。もう訪れないかもしれなかった、私の大好きな空間だ。甲斐性のない彼氏に、思い切りタカる気しかない子供達。3キロの黒毛和牛を奢らされておきながらも、私の心は少しも曇ってなどいない。吉原に次いで、この万事屋も私にとっては大切な居場所なのだから。


「オイ、てめ、それ俺の黒毛和牛ゥゥ!」

「元はと言えば全部私の黒毛和牛だ!」

「ケチくさいこというなヨ!なまえが奢ってくれるって言ってたアル!」

「3キロも奢るとは言ってねーけどな!あっ銀時!その肉返せ!」

「もーみんなまだお肉はたくさん……あれ?!お肉がない!?」

「はっ!?もう肉ねェの!?銀さん全然食ってないんだけど!?」



先ほどまであんなにてんこ盛りだった肉の山か跡形もない。私と銀時、新八は顔を合わせすぐに神楽へと視線を移すと、小柄な体形から想像もできないほどに膨らんだ大きな腹をみて、きっと皆同じように額に青筋を立てていたであろう。


「ひどいよ神楽ちゃん!僕3枚しかお肉食べてないんだよ!」

「…神楽ァ、テメー何一人で全部食っちまってんだよ!!?3キロだよ!?3キロの肉平らげるガキがどこにいんだよ!!!」

「ここネ。忘れたアルか?夜兎は大食いなんだヨ」

「………銀時」

「あ?!」

「黒毛和牛3キロ、レシートはここに置いとく。1週間以内に揃えて吉原にもってこい」

「何で俺ェェェ!?!!!」


残った野菜やら豆腐やらをつまみにビールを飲み干した私は、銀時の青ざめた顔をみて自然と綻んだ。確かに甲斐性はないしコブ付きだし、かっこいいとかなんかたまにしかないというのに、それでもやはり私は銀時がいいのだ。つくづく私も変わり者なんだろうと肩を竦めた。




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