Ichika -carré- | ナノ


▼ 記憶の中のアイツ 1/2



からくり堂から逃げるように駆け出してたどり着いたのはいつだか訪れたことがあるような気がする、大きな公園。色々な感情が相まってうまく呼吸ができない。大きく肩で深呼吸をしながら公園に足を踏み入れベンチへと向かった。元気よく駆け回る子供たちを尻目に、混乱し先ほどから頭痛が止まない頭を抱えながら日陰のベンチへと腰を下ろした。恐る恐るもう一度携帯を開けば映し出されるのは、やはり夢ではない。銀髪頭の男とのツーショット。


『銀の字の彼女なんだろう?』


画面の中の私の笑顔と記憶がうまく結びつかなくて、更に脳が悲鳴をあげるように痛みが広がる。これは一体どういうことなの。おもむろに着信履歴を開けば月詠の名前が並ぶ中に見慣れない登録名が目に止まった。


「…万事屋、…銀ちゃん…?」


何それ、知らない。聞いたこともない。だが銀ちゃんとは、やはり先日病院で会った坂田とやらのことなのか。ジーさんも銀の字が何ちゃらと言っていた。それにしてもなぜ私がこの男とこんな写真を?全蔵は?次から次へと浮かぶ疑問について回るように併発する頭痛が強さを増して吐き気すらも催す。それでも私はどうにか意識を保とうと、着信履歴にある月詠の番号にダイヤルしようとしたものの不意にその指を止めた。そして止めた指で私が開いたものは、データフォルダだった。この写真以外の他にももしかしたら…。そしてその予感は的中する。


「……何で、……?」


一覧で映し出された数々の写真を見るなり、私の額には冷や汗が流れ、心臓がうるさく暴れ出す。その画面には本当に沢山の写真が映し出されていた。そしてそのほとんどに銀髪の男、坂田とやらが私の隣に写り込んでいる。一つ一つその写真たちを開いていけば、海水浴での写真。桜の木を背景にした写真。旅館や神社。私の部屋と思わしきところでの写真。月詠や全蔵が写っている写真もあれば、見知らぬ子供が二人写っている写真。とにかく私が知らない思い出が、たくさんこの携帯に詰まっている。

確かに海水浴にも旅行にも行った。でもそれは全蔵と。全蔵と…?何で、全蔵と?…どうして私、…全蔵と付き合ってるの?


「……っ!!」


ガツンガツンと先ほどとは比べものにならないほどの痛みが私の頭を襲って、思い切り眉を顰めた。意識が遠のく。だけど、ここでこのまま気を失ってしまえば折角すぐそこまで近づいている真実がまた遠退いてしまう。耐えなければ。今倒れては何も得られない。耐えろ、負けるな、今はまだ。

不意に私の脳裏に浮かんだ、夢に出てくる雨の中の男。
こちらに手を差し伸べながら涙を流す一人の男。
私を抱きしめて私の名を呼んだ、あの男は…。


『…なまえ…』


私は、気付いてしまった。
この画面に映し出されているこの男こそが、毎日毎日飽きもせずに私の夢に出てきて、悲しげな表情を浮かべて涙を流し、そして私を絶望の淵から救ってくれていた張本人であると。

堪え難い頭痛からなる吐き気を堪えることが出来ずに、背後にあった大きな木に駆け寄って思わず胃液を吐き出した。と同時に頬を伝う大粒の涙。なぜ涙が出るのか、こんなに胸が苦しくて仕方がないのか、わからない。なぜ、あの男が私の夢に。私の携帯に。なぜ、どうして。脳をぐちゃぐちゃに掻き回されたような痛み。そしてその痛みに混ざって脳裏に駆け巡る映像の数々に、私はまた胃液を吐きながら必死にその痛みに抗った。






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