Ichika -carré- | ナノ


▼ 元カノのアイツ 1/3 side服部全蔵



「あれから、ジャンプ侍は」


今日はお頭の非番の日。ひのやにて落ち合った俺とお頭、そして日輪さんと三人浮かない表情でお茶を啜っていた。理由は他でもねェ、なまえのことだ。俺の質問にお頭は静かに首を横に振った。日輪さんはしきりにハンカチを目元に当てて、鼻をすすっている。


「…あの子、相当ショックだったのね、銀さんのこと本当に好きだったもんね…」

「別にアイツを擁護する気はねェが、悪気があったわけじゃねェよ。すれ違いからの勘違い…ただそれにしちゃ随分な結末が待ってたもんだ」

「百華のやつらにも口止めをしんした。医者には無理に思い出させようとしても、なまえの身体に負担がかけるだけじゃと。極力銀時の話題を避けた方がいいと」

「自力で思い出す可能性は?」

「…何とも言えんと。すぐに戻るものもおれば、一生涯思い出さぬものも…」

「……清猫組の一件然り、銀さんとの一件然り。心に相当な負荷がかかったんだろうね。いつも無理ばっかりする子だからね」

「…そうか」


あれから一週間半が経過した。俺の顔を見れば全開の笑顔で駆け寄ってくるなまえに悪い気はしねェが、素直に喜んでいられないのも事実。こうしてこっそりと密会を開き今後の方針を話し合うのが日課になっている。


「かといって、銀さんだって本当にショックだっただろうね。自分のせいでなまえがあんなんなっちゃって、相当責任感じてるはずよ」

「服部に駆け寄った時の銀時の顔ときたら…やつのあんな顔は初めて見んした。わっちも気が動転して叩いてしまったが、銀時だって己を恨んでいるじゃろう。あんなになまえを好いていたんじゃ、その傷など計り知れぬ」

「…ヤローの名前一つださねェ。本当に忘れちまったんだろうな」


揃って大きくはぁっとため息をついた俺たちは、そのまま口を噤んでしまった。どうにかしてやりてェ、だがどうすることもできねェ。俺たちに今できることは、アイツの身体に負担をかけねェことぐらい。

…今までアイツはとてつもない荷ばかりを背負ってきた。吉原に身売りされたことから始まり、地雷亜の辱めや独裁的な鳳仙の元で百華の副頭として処罰に飛び回る日々。鳳仙が倒れ、ようやく人並みの幸せを手にできていたアイツを待っていたのは更なる地雷亜の裏切り、清猫組からの拉致監禁暴行。そして極め付けが、ヤローだ。もうアイツの身体は、心はそれを受け入れられるほどの容量がなかった。当の昔に限界を迎えていたんだろう。


「…アイツにとって、思い出すこととこのまま忘れていること。どっちの方が幸せなんだろうな…」


思わず呟いた一言に、二人は言葉を返すことなく静かに俯いた。と、頭は思い出したように俺をきっと睨みつけた。


「ところでぬし、なまえに手を出してはおらぬじゃろうな」

「出したくても出せるわけねェだろう。俺だってそんな鬼畜な男じゃあねェさ」

「あら、なまえは不審がったりしないのかい」

「…まァな、これのおかげで」


ガサガサと懐を漁りそれを見せつけると、二人は納得したように苦笑いを浮かべた。




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