▼ 糖分王のアイツ 痔主のアイツ 1/2
『なまえちゃーん!!!元に戻ったよー!!銀さんが銀さんに戻ったよーーー!!』
月詠と二人見廻りをしていた私の携帯にえらくハイテンションの銀時から電話がかかってきた。あれから土方になった銀時からの度重なる電話をシカトし始めて数日。ようやく液晶に『万事屋銀ちゃん』の文字を見て、私はため息とともに安堵したものの。
『これから行くからな!待ってろよ!今日は寝かさねーからな!』
「うるせーな私今仕事ちゅ……」
こいつは電話の意味をわかっていないの?バカなの?私の言葉を最後まで聞くことなく切られた電話をパチンと畳んで袂に突っ込むと、月詠が私の顔を覗き込んでいる。例によってニヤニヤと嬉しそうな顔で。
「元の姿に戻ったのか、銀時は」
「らしーけど…」
「どうした?嬉しくないのか?」
「なんつーかこう、呆気なさすぎるというか」
「どういう意味じゃ?」
「なんかもっと波乱が待ってそーな、嫌な予感」
今までも度重なるトラブルに見舞われてきた私たちだが、今までのトラブルを振り返ってみるとこうも簡単に問題が解決するとは思えないのだが。…なんて考え過ぎかもしれないな。ここ最近ドタバタしてたからそういう事態に敏感になっているかもしれない。「気のせいかも」と首を傾げる月詠に笑いかければ、月詠も同じように微笑んだ。
「昼飯どーする?上でも行く?」
「そうじゃな、……ん?何じゃあれは」
「ん?」
月詠が視線を向けた前方。遥か向こうの方に何やら土埃が立っている。心なしか怒号のようなものが聞こえてきて、私たちは土埃を出所を凝視した。そしてその土埃を立たせながら全速力でこちらに駆けてくる人物を捉えるなり、私たちは思わず頭を抱えた。
「なまえー!!!!」
「なんであいつ走ってんの?何であんな全速力なの?」
「わっちが知るか」
ものすごい勢いでこちらに向かって走ってくるのは紛れもなく銀時である。私たちの元に辿り着いたかと思えば、勢いよく私の腕を掴んで腰に手を回す銀時に私は目を見開いた。
「な、何!そんなに急いで来なくたって逃げねーよ」
「なまえ、俺と結婚しろ」
「はぁ?」
「今すぐにだ!さ、役所行くぞ!つーかお前役所に戸籍とかあんのか?!」
「知らねーよ!突然何なんだよ!離せ!」
「じゃあキスしてくんねーか?」
「じゃあって何だよ!銀時、お前どーした?頭でも打ったか?」
ぜえぜえと息を切らしながら私を掴む手を離さない銀時に私は首を傾げた。何だ、こいつ様子がおかしいぞ。心なしか前髪がいつも以上にボサボサしていて目にかかっていて表情がわからない。こいつこんな前髪長かったっけ?これじゃまるで、……。
「なまえから手を離しやがれクソ忍者ァァァァ!!!」
私の手を掴んでいた銀時が勢いよく蹴っ飛ばされて地面にスライディングをした。そして銀時を蹴飛ばした人物を見て、私の頭はさらに混乱することとなる。
「服部。何じゃ、いきなりやってきて」
「…全蔵、どうしたの」
「どーしたもこうしたもあるかよ!」
キッと私と月詠を睨みつける全蔵の顔には見慣れたもっさりとした前髪はかかっておらず、青い瞳が曝け出されている。何だ、どういうことだ?蹴飛ばされた銀時の元へ駆け寄ると、なぜか苦しそうに呻き声を上げながら尻を押さえている。
…まさか。そんな、まさかね、銀時くん。さっき元に戻ったって喜んでたばっかりじゃん?ないよね、ね?ね?…と地面に這いつくばる銀時に視線を送るも、がしっと肩を掴まれ振り返った先にいる涙目の全蔵に絶望へと叩き落とされた。
「…なまえちゃん、銀さんこっち……」
「何でだァァァァァァァァ!!!!!」
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