Ichika -carré- | ナノ


▼ マヨネーズなアイツ 1/3 入れ替わり篇



万事屋に遊びに行く約束を取り付けていた非番の日。私は一人ひのやの団子を手に万事屋へと向かっていた。普段だったらしつこいほど「今どこ?」「ナンパされてねェか?」なんて電話がかかってくると言うのに、今日は珍しく一度も電話が鳴らない。私自身少しも心配にならないのが不思議で仕方ないが、どうせまだ寝ているんだろう。そんな気持ちでたどり着いた万事屋。階段を上がり、玄関の戸を叩けば走ってくる神楽。

……の足音が聞こえない。あれ、今日神楽たちいないんだっけ?戸を引いて「銀時ー!」と声を上げると、奥からガタッと物音が聞こえた気がした。…やっぱりまだ寝てんだな、ったくしょうがねーやつ。


「銀時ー、寝てんのー?入るよー」


靴を脱いでひたひたと廊下を歩き居間の戸を引くと、そこには驚いたように目を見開いて私を見つめる銀時の姿があった。


「は、なに?起きてたの?返事くらいしてよ」

「…えっ、あれ?何、…あれっ!?……どうした?」

「……はぁ?」


なぜか慌てふためいている銀時に近寄れば、額に汗が滲んでいる。机の上に団子を置いて眉を顰めて銀時の顔を覗き込むと、心なしかその表情が引きつっている気がする。


「今日約束してただろーが。まさか忘れてたわけ?」

「あ…あぁー!そうだな、うん。約束、してたな」

「なに?なんかお前変だよ?どーしたの、体調でも悪いの?」

「いや別に何でもねェよ」

「…ふーん?」


訝しげに銀時を見つめれば、銀時はまたすぐに目を逸らす。やっぱりおかしい。本当に体調でも悪いのか?それに何だかいつもと雰囲気が違う気もする。…あ、まさか!私はぐわっと銀時の胸ぐらを掴んで眉を顰めた。


「……まさか、浮気でもした?」

「…はっ!?してねーよ、しねーよ!お前こえーもん!!」

「はァ?!怖いからしないって何それ!じゃあ怖くなかったらすんのか!?優しかったら浮気すんのかテメー!」

「そうじゃねェよ!いや、アレだ、アレ。…そう!今日朝食ったマヨネーズ丼で腹下しちゃったんだよ、腹痛ェんだよ、うん」

「マヨネーズ丼んん?」


確かに顔色が悪い気もしなくもない。あっそう、とパッと胸ぐらを掴んでいた手を離せば安堵の表情を浮かべる銀時は、おもむろに煙管を咥えた。


「…え、何、お前煙管なんか吸い出したの?何、どーしたの?」

「……!!いや、コレは……アレだよ。…糖分!糖分制限始めたんだ。その気を紛らわすためにだな…」

「突然キャラ設定変えようったって、もう無理だと思うよ。それに煙管は月詠だし。マヨネーズは土方じゃん」

「……」

「あ!土方といえば!今日真選組いこーとおもってんだけど、一緒に行くでしょ?」

「はァ?!!!」


私の提案に銀時は大袈裟に驚いて見せた。先日お弁当篇で世話になった真選組に、結局詫びをする時間がなく何だかんだで忘れかけていたが吉原を出るときに寄ったひのやにて、日輪に渡された団子の山。『あんたこの前真選組に世話になったんだって?どーせあんたのことだから何のお詫びもしてないんでしょう?これ持って来なさい』と本当にすっかり忘れていた出来事を思い出させられたのだ。地上に出るついでだから、と風呂敷に包まれた団子を持って来た次第なのだ。


「いや、今日はやめとけ。悪いことは言わねェから、改めた方がいい」

「いや私お前と違って忙しいから、そうそう地上上がんないもん。その為だけに地上上がるのも面倒だし今行ってくるよ」

「それなら俺が渡しとくから、今日はあそこいくのやめとけって」

「……何、まだ妬いてんの?」

「あ?!」

「大丈夫だって、あんなむさ苦しい動物園みてーなやつらに微塵も興味ないから!特に土方なんかハナクソだから大丈夫!」

「なんだとテメェェェ!……はっ!!」

「……?!なんでお前が怒ってんの!?」

「…いや、何でもねェ。そうだな、土方は…ハナクソだ。だからわざわざお前が足を煩わせる必要はねェ」


いつにも増してしつこい銀時に、はぁっとため息をついて机に置いた風呂敷を担ぎ上げてぴっと手を上げれば私はそのまま玄関へと向かった。オイ!と声を上げてこちらに駆け寄り私の腕をぐいっと掴む銀時はまたダラダラと額に汗が流れている。何だっていうんだ一体。


「いくら土方がハナクソでも迷惑かけたことに変わりはねーから。すぐ帰ってくるから待ってていいよ」

「いやだから!ダメだっつってんだろ!今日はマジでやめろって!」

「しつこいなぁ!何なの!?そんなに行きたくないならいいってば!」

「行きたいとか行きたくないとかじゃねェんだよ!とにかく…って、…っ!」

「ぉわあっ!」


ぐいっと自身の腕を引けば、また懲りずに私の腕を引っ張る銀時と押し問答の末、バランスを崩して玄関前の廊下に倒れこんだ私の上に、覆い被さるようにのしかかる銀時の全体重。私の胸に顔を埋めたまま動かない銀時の髪の毛を引っ張り胸から顔を引き剥がして睨みつけた。そして「いつまでそーしてんだ」と言いかけた言葉を、私は思わず飲み込んでしまった。


「…は?何でお前、顔真っ赤なの」


目を見開いたまま顔を真っ赤に染める銀時に、私は首を傾げた。返事もせずに硬直する銀時にいよいよ本気で不安を覚えた私は眼前にある銀時の頬を両手で包み込み、その瞳を覗き込んだ。「…銀時?」と小さく声を出せば、焦点の合わなかったその瞳が私を映した。と、その瞬間、大きな音を立てて目の前の玄関が開け放たれた。


「オイ!!!今日なまえが………」

「……あれ、土方」


噂をすれば何とやら、棒付きキャンディを手に持った土方が大きな声を上げて入って来た。と同時に玄関先で倒れ込む私たちを見て、固まったように動かなくなった。そしてすぐに私に覆い被さっていた銀時が勢いよく私から離れて、慌てて土方に駆け寄った。


「オイ、これは…」


「テメー人の女に何してんだァァァァァァ!!!!」



と、怒鳴り声を上げたのは、土方の方だ。何だって!?私いつお前の女になった!?何で銀時が慌てて取り繕ってんの!?一体どういうこと?


「オイ!一体何だっつーの!?銀時、お前今日マジでどうした!?」


くわっと起き上がり銀時に詰め寄る私に、何故か土方が泣きながら私の肩に手を置いた。


「なまえちゃん、銀さん、…こっち」


……はいィィ!?




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