Ichika -carré- | ナノ


▼ スイカと砂の城と夕焼けとアイツ 1/3



「…っぷは!!」


真っ暗闇に包まれていた私の視界に眩しい日差しが飛び込んできたと同時に、欲していた酸素を無意識に肺に取り込めば私を覗き込む見慣れた顔ぶれ。ぜぇはぁぜぇはぁと荒く呼吸を繰り返す私を見るなりほっと安堵の表情を浮かべるその顔たち。


「なまえ!大丈夫か?」

「ゆっくり呼吸をするの!安心して、もう大丈夫だから!」

「……死んだかと思った……」

「なまえー!何で泳げないのに海なんてきたアルかー!!バカバカ!」


全蔵に猿飛、神楽の顔を見て私は乱れていた呼吸を徐々に落ち着かせてゆっくりと深呼吸を繰り返した。あれほど隠したかったカナヅチという事実を、これでもかと周囲に知らしめてしまって恥ずかしさに言葉が出ない。それにしても生きててよかった。本気でダメかと思ったもん。…アレ、ていうか、銀時は?そういえば銀時が私のこと助けに来なかった?!それに月詠も新八もいない。キョロキョロと視線だけ動かすと、察したように苦笑いする三人につられてゆっくりと起き上がれば、少し離れたところで月詠と新八に袋叩きにされている銀時の姿があった。


「何で泳げんくせにいの一番に飛び込んだんじゃ!たわけが!」

「気がついたら勝手に体が動いてて…」

「何格好つけてるんですか!あんたら二人引き上げんのどんだけ大変だったと思ってるんですか!!」


起き上がって銀時に駆け寄った私は、二人をかき分けてそのままガバッと銀時に抱きついた。「なまえ!気がついたのか!」と声を上げる月詠を尻目に、抱きついたまま肩を震わす私を銀時はぎゅっと抱き返した。


「なまえ…わりぃ」

「…銀時」

「俺、お前が…」

「よかったぁ、お前も泳げないの!?よかったぁぁぁあ!!!カナヅチなの私だけかと思ってたぁぁ!!」

「……はい?」

「私だけ泳げないのかと思って、恥ずかしくて隠してたの!だけどよかった、銀時ぃぃ!好き、ほんと好き!」

「「……」」


半べそをかく私を呆然と見つめるみんなの視線が痛いが、だって本当に恥ずかしかったんだもん!月詠にも絶対他言するなと釘を刺し、どうにか水に触れるのを回避すべく作戦を練っていたら昨夜は眠れなかった。バレたら絶対笑われると思ったんだもん!「お前、泳げねーの!?だっせー!」って笑う銀時の顔が簡単に想像出来たんだもん!それなのに、まさか銀時もカナヅチだったなんて。私たち…運命なのかもしれない。


「いやそんな運命、全然ありがたくねーんだけど」

「全蔵!今日の私と銀時の予定は全部変更して!砂遊びとスイカ割りに変更して!!もう海なんて入らない!バカ!アホ!キレ痔!」

「…まァ、元はと言えばお前さんの浮き輪から手ェ離した俺が悪いからな、仕方ねェか。…ってキレてねーよ!」

「えェェェ!?じゃあ私と銀さんの愛の水練は!?もう終わり!?まだ銀さんのポロリ見てないわよ!」

「猿飛、今日は諦めなんし。ほら、わっちらとビーチバレーするぞ」

「じゃあ志村、お前は俺に付き合え。遠泳勝負でもするか」

「いいですね!負けませんよ!」

「それじゃ、カナヅチ二人はここで仲良く砂遊びでもするヨロシ」


ぐすぐすと半べそをかく私と苦笑いを浮かべる銀時を残し、魔の海へと向かっていくみんなを見送ってひとまずレジャーシートに座り直した。ふぅ、と私の隣でため息をつく銀時を見上げる。


「…泳げないくせに、助けに来てくれてありがと」

「まァ助かってねーけどな」

「飛び込んで来た時、少しだけカッコよかった」

「そう?マジで焦ったんだもん。あ、これヤバイわって思ったら咄嗟に飛び込んでた」

「本当、珍しくカッコよかった」

「珍しくは余計だろーが」


銀時の手のひらに、自身の手のひらを重ねてぎゅっと握れば、嬉しそうに笑って私の額にキスをした。泳げないって知って安心したのは本当。でもそれ以上にあんな必死な顔で私を助けに来てくれた銀時に惚れ直したのも、本当。本当に嬉しかった。


「まぁそのあと白目剥いてたけどね」

「…それは忘れてくんない?」




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