Ichika -carré- | ナノ


▼ 水着と浮き輪とアイツ 1/3



「銀さん、ハイ、あ〜ん!」

「いいって!いらねーって!」


あー、うるさい。


「なまえ、全さんにあーんは?」

「見て見てー!海見えてきたアルよー!!」

「ちょ、神楽ちゃん!窓から乗り出したら危ないよ!」


あーうるさい、うるさい。


「なまえ!お前なんでそっちの席座ってんだよ!こいつと代われよ!」

「ダメよ!銀さんの隣は私って遠足のしおりにも載ってたでしょう?」

「なまえ、お頭、大丈夫か?まだ酔い冷めねーか?」


「全っ然大丈夫じゃねェェェ!!!!」


ぐわっと座席から立ち上がり車内を睨みつける私に、きょとんとした表情の見慣れた顔ぶれ。万事屋からは銀時、神楽、新八。御庭番からは全蔵、猿飛。そして吉原からは私と月詠。嫌な予感しかないこの珍メンバーを乗せた貸切にしたらしい小型マイクロバスは、海岸沿いを優雅に走って海へと向かっている。


「…なまえ、も少し声量を下げなんし……」


エチケット袋を片手に真っ青な顔をした月詠がちょんちょんと私の脇腹を突く。かくいう私も先ほどから吐き気と乗り物への恐怖と戦いながら月詠と二人大人しく運転手席寄りの席に腰を下ろしていた。遠足気分のやつらはあーじゃねーこーじゃねーと車内で騒ぎ散らしているし、ていうか猿飛!何でお前までいるんだよ!!


「今日は珍しく全蔵が誘ってくれたの。銀さんのヌードが見れるしぃ、ポロリもあるかもしれないしぃ。行かない理由はないわ!」

「オメーになんか銀さんの貴重なポロリは絶対ェ見せねーから!ってかちけーよバカ!イボ痔忍者!テメー謀りやがったな!」

「今日の遠足は俺の懐から金が出てんだ!今日は俺が仕切らせてもらうぜ。ジャンプ侍、なまえにゃ指一本触れさせねーからな」

「しつこい男は嫌われるアルよ」

「チャイナ娘!お前降りろ、今すぐ降りろ!」


仲が良いんだか悪いんだかわからないやつらを無視して月詠にポカリを渡すといくらか気分が戻ったのか、顔色が良くなってきている。無理やり連れてきてしまったが、ちゃっかり月詠も前日に新しい水着を新調したり、日輪から大きなスイカをもらったりして楽しみにしていたようだ。改めて月詠っていいやつだなぁ、と実感せざるを得ない。


「…何じゃ?」

「ううん、何でもない。後でいっぱい写真とろーね」

「何を珍しいことを言っておるんじゃ」


なんて言って見せながらもめちゃくちゃ嬉しそうな顔してるし。何だよ、可愛い奴め。と、私たちを乗せたバスがようやく海水浴場の駐車場に停まり、いよいよ神楽の嬉しそうな歓声が車内に響き渡った。引率の先生の如く仕切り出す全蔵に促されるまま、バスを降りてみれば広がるのは視界いっぱいの空と、白い砂浜と………。


「……」

「なまえ、これが海っつーんだ。綺麗だろ?」

「…う、うん。綺麗だねぇ…」


目の前に広がるキラキラとした果てしない海とやらを指差して、全蔵が私に笑いかける。いや綺麗だよ、綺麗だけどさ。何あれ、全部水なの?マジ?あの人口の川と比べ物になんないくらいデカイんですけど。恐怖なのか緊張なのか、だらだらと汗が背中を流れる。


「とりあえずビール飲みてーんだけど!オイイボ!海の家どこだよ」

「海の家ならあっちにあるわよ。私たちも着替えたいから一旦海の家行きましょう」

「僕たちはもう下に海パン履いてるんで、パラソルの用意でもして待ってますね」

「そうじゃな、なまえ、…って、ぬし何をしておる」

「……何でもない……」


私は月詠の腕をぎゅっと両手で掴みなるべく海を見ないようにと目を瞑っていた。呆れたように笑う月詠の声が聞こえたが、致し方ない。だって、何あの果てしない海とやら。怖い。怖すぎる。あんなところで溺れたら絶対に絶対に助からない。でも水が苦手なのバレないようにしなきゃ…!!!!

こうして私VS海というどう見ても勝ち目のない戦いの幕が上がった。一方で私の水着姿を心待ちにして、私の異変になど少しも気付いていない銀時と全蔵には呆れて開いた口も塞がらないが、今は好都合だ!このまま何とか水には触れずにやり過ごせるといいのだが。



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