Ichika -carré- | ナノ


▼ 人の気も知らないアイツ 1/2



…私、何か悪いことしたかな。

2時間ほどの睡眠をとり目を覚ませば、何故か窓の外は真っ暗で。その上パタパタと水滴が家屋に当たる音が聞こえる。さっきまであれほど良かった天気が完全に荒れ模様。私は愕然としながら万事屋へ電話をかければ、銀時の言葉が更に私を絶望に突き落とした。


『こんな天気じゃ無理だろ?別の日にしねェ?どーせその声じゃお前まだ弁当作ってねーだろ?』


…いつもだったら、反論する私なのに。疲労と寝不足と悲しみが相まって「うん、……作ってない」なんて意味のない嘘をついてしまった。


『じゃ俺もっかい寝っから』

「うん。…私もそうしようかな」


携帯を閉じた私は、ごろんとそのまま布団に寝転がった。あーあ、結構楽しみにしてたんだけどなぁ。ていうか弁当頑張って作ったんだけどなぁ。でもあんな眠たそーな声の銀時に本当のこと言えなかったんだもん。かったるそーな寝起きの声に、何かむかついちゃったんだもん。楽しみにしてたのは私だけだったんだって。


「…お天道様のバカやろう」


みるみる視界が歪んでくるのを認めたくなくて、手の甲を瞼に押し付けた。普段だったらこんなことで泣いたりなんてしないのに。どうしちゃったんだろう、疲れてんのかなぁ。日輪と月詠がせっかく手伝ってくれたのに、予定がなくなったなんて言えない。でもずっと家にいたらバレちゃうし。


「……うぇっ、ひく……」


広い長屋でいい歳した大人が、予定が潰れた程度で声を出して泣いているなんてアホらしくて余計に泣けてくる。ごしごしと目元をこすってボサボサの髪の毛を整えた。あーもう化粧すんのもめんどくさい。とにかく弁当を持って吉原を離れねば。普段着に着替えて弁当箱を抱えて部屋を飛び出した。


・・・・


「ぬし…その顔で行くのか?」

「え、あぁ、うん。ちょっと寝坊しちゃって」

「それにしても生憎の天気じゃが、どこへ行くんじゃ?わざわざ地上に上がらずとも吉原に来させればいいじゃろう」

「いや、うん。大丈夫、行ってくるね」

「……そうか?」


完全に不審がってる月詠から逃げるように屯所を後にして昇降機へと向かった。不自然に出てきてしまっただろうか。本当は予定がなくなって一人で弁当を食べるつもりなのがバレてはいないだろうか。作ってもらった手前申し訳ない気待ちもあるが、それ以前にこんな天気の中一人で弁当を食べるなんて恥ずかしくって知られたくない。

地上に上がれば地下よりも強く雨が降っていて、私ははぁっとため息をついた。先日の旅行で買った真っ赤な和傘を差しても全然気分は晴れない。またも瞳にじんわりと涙が滲む。もうやっぱり素直に月詠たちに謝って、屯所でみんなで食べようかな。



「オイ、お前そんなとこで何してやがる」

「…へ?」


背後から車のエンジン音と共に聞こえた聞き覚えのある声に、私は後ろを振り返った。私の顔を認識するなりあからさまに嫌そうな顔をするそいつと、驚いたように「あ」と声を上げる助手席に座る男。私は思わずその車、もといパトカーに飛びついた。


「うわーん!!土方助けてぇ〜〜〜!!!!」

「うわァ何だテメェェェ!!!」

「乗せて!お願い、助けてぇ〜〜!沖田〜〜!!」

「げ、姐さん鼻水たれてやすぜ」

「わかった!乗せるから!乗せるからパトカー殴んのはやめろォォォ!!!」


偶然目の前を通りかかった真選組の土方に沖田。雨の中涙と鼻水を垂らしながらパトカーをバシバシと叩けば観念したように私を後部座席に乗るよう促す土方が初めていいやつに見えた。




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