▼ 偏食どころか変食なアイツ 1/3
『へ?今なんつった?』
今日は比較的早く仕事が片付き、かといって帰宅できるほど団員がいるわけでもなく。特にやることのなかった私は散歩ついでに屋根の上から軽く見廻りをしていた。今日は月詠も非番だし、何となく人と話したくなってしまった結果、気がつけば万事屋に電話をしていた。携帯越しに聞こえるマヌケな声に自然と笑みがこぼれる。
「だからぁ、弁当作ってあげる」
『なまえが、…弁当!?』
銀時が驚愕したように呟けば、すぐ後ろから同じように「えェェェェ!?」と声を上げる新八に「とうとう地球滅亡するアル」と神楽。随分な反応に思わず携帯を握りつぶしそうになるが何とか持ちこたえて咳払いをした。
「昨日月詠とか日輪とかと晴太の弁当作ったんだよ。したら思いの外ちゃんとできたから。銀時にも作ってあげよーかなって思ったんだけど」
『へ、へぇ〜……。お前、包丁とかもてんの?前にすき焼き食った時野菜手でちぎってたじゃねーか』
「日輪に教えてもらったから平気ですぅ」
『大体日輪もまともに包丁握れんのかよ。あいつが握れんの男の』
「お前最近下ネタばっかりじゃねーか!!!自重しろ主人公!!!」
明日はちょうど非番だし、最近は随分と暖かくなってきた。地上に上がってピクニックでもしたいなぁなんて思っていたのに、返ってきた反応に思わず口を尖らせた。
「そんなに私の作る弁当が信用できないわけですか」
『いやそうじゃねェけど、…ねぇ新八くん?(僕に振るのはやめてください!)』
「お前らほんっと腹立つ!!!じゃーいいよ、お前なんかに絶対弁当なんか作ってやんねーから!全蔵誘ってピクニックするからいいよ!じゃーね!」
ぶちっと終話ボタンを押せばすぐにまた万事屋から着信が入る。すっかり機嫌ナナメな私は「何ですか」と電話に出れば、銀時は慌てて弁解している。
『なまえちゃん!?考え直して、あんな忍者に弁当作るくらいならどう考えても捨てた方がマシだろ?!な!?銀さんなまえの弁当食いてーから!食うしかねーから、それ!』
「食うしかねーって何だ!彼女の作る弁当は罰ゲームか?罰ゲームなのか!?」
『だァァァァ!とにかく!バカ忍者とピクニックなんて銀さん許しませんから!俺のために弁当作ってくださいお願いします』
「…あ、そう。じゃー何か食べたいものは」
『餡子』
「は!?」
『いやだから、白いご飯の上に餡子乗せて食うの。宇治銀時丼知らねーのお前』
「知らねーし気色わりーしそれ弁当じゃねーじゃん」
『神楽はタコさんウィンナーとウサギのリンゴだって。ぱっつぁんはだし巻き卵だってよ』
「………」
突然難易度が上がった弁当のおかずに私は思わずぱちぱちと瞬きをした。「んで俺は唐揚げ」と付け足す銀時に曖昧に頷き、明日の約束を取り付けて電話を切った。
「唐揚げはいいとして、……タコさんウィンナーに、だし巻き卵だと…?!」
普通のウィンナーじゃダメなのか?タコじゃなきゃダメなのか?!ついでに卵焼きも普通の甘い卵焼きじゃダメなのか?だし巻き卵じゃなきゃダメなのか!?かといってせっかくリクエストをもらった上に、自分から作ると嘯いてしまったのだからもう後には引けない。
……まだそんなに遅い時間ではない。昨日の今日で些か頼みづらさはあるものの、背に腹は変えられない。私は急いでひのやへと向かった。
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